遺族の死別悲観が日本社会、医療福祉に及ぼす影響は?
東北大学は9月15日、家族や友人との死別による悲嘆が、遺族にもたらす精神的・身体的な影響、および医療福祉に依存する傾向を調査し、その結果を発表した。これは、京都大学学際融合教育研究推進センター政策のための科学ユニットのカール・ベッカー特任教授、東北大学大学院文学研究科の谷山洋三准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、死生学の国際学術誌「OMEGA-Journal of Death and Dying」のオンライン版に掲載されている。
日本はまさに高齢者の「多死時代」に突入しようとしている。十数年も経たないうちに、日本人のほぼ全員が家族や友人との死別に直面し、その死別悲嘆は日本社会に多大な影響を及ぼす。具体的には、生産と消費の低下、身体的・精神的な不調や疾病、医療福祉への依存などが予測されている。こうした問題について、欧米では一定の研究蓄積があるのに対して、日本は遅れをとっている。日本の全人口の中で、どのような遺族が最も死別悲嘆による打撃を受け、自立が困難になるのか、どのような死生観や葬送儀礼、社会支援等が遺族の心を支え、医療福祉依存を軽減できるのか、一刻も早く解明する必要がある。
葬儀等に満足できなかった遺族の医療費は、長期的に高くなる傾向
研究グループは、日本人の遺族に対する調査を通じて、死別悲嘆が原因で医療福祉依存となる兆候やその特徴を特定し、どのような活動や介入が遺族を病的悲嘆から守ることができるかを研究している。今回の研究は、2018年秋からパイロット調査を実施。葬送儀礼を行う僧侶等の協力を得て、2〜8か月以内に家族を亡くした240世帯に対してアンケートを配布し、165件(約70%)の完全な回答を得た。その結果、以下のことが明らかになった。
(1)死別悲嘆が深刻なほど、生産性が落ちて、仕事の病欠が増え、精神的・身体的な疾患を抱え、より多くの医療福祉に頼る(医療費がかかる)傾向がある。
(2)葬送儀礼に満足し、健全な形で死者との関係を保てる人には、上記のような傾向が低く、逆に葬送儀礼に不満を抱え、死を受け入れられない遺族ほど、後々精神的・身体的な不調をきたし、医療福祉に依存する傾向がある。
(3)もともと低所得層の遺族や収入が激減した遺族では、生産性低下や投薬量の増加傾向がある。ただし、葬送儀礼にかかる費用が高いと回答したのは、低所得層の遺族ではなく、葬儀を省略したり密葬にしたりした遺族。葬送儀礼にお金をかけなかった人々が、長期的には医療福祉を頼ることになり、多くの医療費を支払う傾向にある。
現時点で考えられる予防的支援としては、収入が激減した遺族に対する公的な資金支援や、人手不足分野への雇用奨励が考えられる。あるいは、英国が行ってきたような、低所得層の葬儀費の公的負担も、後々の疾病などを防ぎ、悲嘆軽減に役立つことが予測される。
悲観が緩和されない遺族多数、日本の葬儀の簡素化は本当に合理的なのか
日本社会では、伝統的な葬送儀礼や法事などを通じて、遺族は次のような経験をし、死別という悲しみを克服できたことが確認されている。一方、核家族化、あるいは経済的合理性という名の下で密葬や直葬が増え、遺族の悲嘆が緩和されない事例が多くみられる。「新型コロナウイルス感染が広がる現在では、集会を行うのは難しいが、一連の葬祭行事は大切な役割を果たしているように思われる」と、研究グループは述べている。
研究グループは、今回のパイロット調査に続き、1,000世帯を超える同調査のデータを分析し、どのような人たちにどのような予防対策が最も有益であるかを解明する予定だ。同研究および現在進行中の大規模な調査の結果に基づいて、遺族に対して適切な経済的支援を行うなど、日本社会の死別悲嘆による影響を軽減する政策の立案につながることが期待される。
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