ADHDを有する人は、思春期前後から日中に強い眠気を感じることが多い
浜松医科大学は8月17日、ナルコレプシーと呼ばれる睡眠障害と注意欠如多動症(ADHD)に見られる多動性・衝動性と不注意症状が、遺伝的に関連していることを世界で初めて見出したと発表した。この研究は、同大子どものこころの発達研究センターの高橋長秀客員准教授と、同センター土屋賢治教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Translational Psychiatry」に掲載されている。
ADHDは神経発達症(発達障害)の一つで、じっとしていることや待つことが苦手といった多動性・衝動性と、集中力を持続することが苦手といった不注意を特徴とし、18歳以下の約5%、成人の約2.5%に見られると報告されている。また、ADHDを有する人は、思春期前後から日中に強い眠気を感じることが多いことが知られていたが、その原因については明らかになっていなかった。これまでの研究で、ADHDの原因としては、環境要因と遺伝子の変化の組み合わせが関与していることがわかってきており、特に頻度が高く多くの人にも見られる遺伝子の変化が多数組み合わさることで、ADHDと診断される確率が高くなることが報告されている。
一方で、夜間に睡眠時間を十分にとっても日中に強い眠気を感じてしまうナルコレプシーという非常にまれな睡眠障害がある。ナルコレプシーの原因としては、HLA―DRD2という遺伝子が関わっていることが知られているが、東京大学の徳永教授らの研究で、この遺伝子以外にも頻度の高い遺伝子の変化がナルコレプシーの発症に関わっていることがわかってきていた。さらに、ADHDに広く使われている治療薬と、ナルコレプシーに用いられることが多い治療薬は、メチルフェニデートという共通の成分で作られている。このことから研究グループは今回、ナルコレプシーに関連している遺伝子の変化が、ADHD特性に影響する可能性があると考え、研究を行った。
ナルコレプシー発症に関与する遺伝子の変化が、99か月の子どもの多動性・衝動性、不注意症状と関連
研究グループは、東京大学で行われたナルコレプシーの患者を対象とした先行研究をもとに、776人のHBCstudy参加者(いずれも生後99か月の子ども)を対象に、約650万か所の遺伝子の変化を調べ、ナルコレプシーに関連する遺伝子の変化の数と効果の大きさを考慮し、ポリジェニックリスクスコアと呼ばれるナルコレプシーに対する「遺伝的なりやすさ」を算出した。ADHDの傾向については、世界的に広く用いられているADHD-RSという質問紙を使用した。
ポリジェニックスコアを用いて、ADHD-RSで測定した多動性・衝動性と不注意症状との関連を解析した結果、ナルコレプシーに対するポリジェニックスコアが高くなると、多動性・衝動性、不注意症状いずれも点数が高くなる傾向があることがわかった。つまり、ナルコレプシーの発症に関連する遺伝子の変化は、ADHD特性に影響することが明らかになった。
次に、これまでの研究で同じような機能に関わっていることが報告されている遺伝子のセットを用いて、ナルコレプシーとADHD特性の両方に関与する遺伝子のセットがないか検討した。その結果、ドパミンと呼ばれる神経と神経をつなぐ物質に関与する遺伝子や、免疫系・鉄代謝・神経細胞を支えるグリア細胞に関与する遺伝子が共通していることを見出した。これにより、ナルコレプシーとADHD特性には共通して関与する遺伝子があることがわかった。
ADHD特性を持つ人に関わる人が「遺伝子の影響」という視点をもつことで、良好な社会適応を目指すことが可能
今回の研究により、ADHD特性を持つ生後99か月の子どもが日中に強い眠気を感じることが多いのは、生活リズムの乱れなどだけでなく、遺伝子の影響、つまり体質に由来する可能性が高いと考えられることがわかった。
ADHD特性を持つ人のみではなく、ADHD特性を持つ人に関わる人やサポートする人がこのような視点を持つことで、より良好な社会適応を目指すことが可能になると考えられる。今後、この結果が他の研究グループでも再現されることを期待したいと、研究グループは述べている。
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