近視は発症年齢が低いほど進行が速く強度近視になりやすいが予防法は確立されておらず
自治医科大学は7月30日、近視児童の眼軸伸長抑制におけるオルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼液併用の2年間の有効性について世界で初めて明らかにしたと発表した。これは、同大附属さいたま医療センター眼科(梯彰弘教授)の木下望講師の研究チームによるもの。研究成果は、「Scientific Reports誌」に掲載されている。
近年、近視の有病率は世界的に特に東アジア諸国で増加傾向にあり、発症が低年齢化し、社会問題になっている。近視は発症年齢が低いほど進行が速く、強度近視になりやすい傾向がある。子どもの近視進行の主な原因は眼軸長の伸展であり、強度近視になると眼軸伸長により網膜が引き伸ばされ萎縮することにより、黄斑変性、網脈絡膜萎縮、緑内障、網膜剥離の発症リスクが高まり失明につながる。しかし、強度近視への進行を予防する治療方法は確立されていない。
それでも近年、近視の進行を遅らせる方法が報告されるようになった。近視進行抑制率は、1%アトロピン点眼液が80%、0.01%アトロピン点眼液が60%、オルソケラトロジーが43%と報告されている。1%アトロピン点眼液は、現在最も強力な近視進行抑制効果を有すると認められているが、散瞳、調節障害などの副作用が強く、日常使用は困難で普及しなかった。その後、0.01%アトロピン点眼液は、このような副作用がなく、日常使用が可能であることが報告された。しかし、同点眼液は近視を矯正することができないため、眼鏡、コンタクトレンズ、オルソケラトロジーなど、何らかの近視を矯正する手段が必要という弱点がある。一方、オルソケラトロジーは、就寝中に特殊なハードコンタクトレンズを装用することで角膜形状を矯正し日中裸眼で過ごすことができるが、近視進行抑制効果はアトロピン点眼液よりも劣ると考えられている。
併用治療はオルソケラトロジー単独治療に比べ、眼軸伸長を28%抑制
そこで研究グループは、このオルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼液を組み合わせて併用することにより、オルソケラトロジー単独治療を上回る近視進行抑制の相加効果があるかを確認する前向き臨床研究を行った。
屈折度数が-1.0~-6.0ジオプター(D)の近視を有する8~12才の男女80症例を対象として、オルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼液の併用治療群(併用群)、オルソケラトロジー単独治療群(単独群)の2群に対象を無作為に振り分け、3か月ごとに眼軸長の測定を行った。そのうち73症例(併用群38例、単独群35例)が2年間の検査を完了した。
2年間で眼軸長は、併用群が0.29±0.20mm、単独群が0.40±0.23mm増加し、統計学的有意差を認めた(P=0.03, 対応のないt検定)。併用群は単独群に比べ、眼軸長増加量が0.11mm小さく、併用治療はオルソケラトロジー単独治療に比べ眼軸伸長を28%抑制した。研究登録時の屈折度数と眼軸長増加量の関係を調べたところ、オルソケラトロジー単独治療においては、近視度数が軽い(=近視矯正量が小さい)ほど、眼軸長増加量がより大きい、強い正の相関を認めた(ピアソンの相関係数; r=0.563, P<0.001)。併用治療においては相関を認めなかった。
オルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼液の併用治療が、近視進行抑制の最も効果的な選択肢になり得る可能性
研究登録時の屈折度数で層別化して、2群間の眼軸長増加量を比較したところ、-1.0~-3.0Dの軽度の近視においては、オルソケラトロジー単独治療の眼軸伸長の抑制効果は比較的弱く、0.01%アトロピン点眼液の併用による相加効果が大きいことが確認された。一方、-3.0~-6.0Dの中等度の近視においては、オルソケラトロジー単独治療の眼軸伸長の抑制効果は比較的強く、併用治療と同等であることが確認された。
「オルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼液の併用治療は、お互いの弱点を補完しつつ、現時点において近視進行抑制の最も効果的な選択肢になり得る」と、研究グループは述べている。
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・自治医科大学 研究情報