大規模全ゲノム関連解析研究から膵臓がん関連の遺伝子多型を探索
愛知県がんセンターは6月24日、膵臓がんリスクと関連する遺伝子を検討する大規模国際共同研究を実施し、「GP2遺伝子」の多型が、日本人を含むアジア人の膵臓がんのなりやすさに関連することを新たに発見したと発表した。これは、愛知医科大学公衆衛生学教室の菊地正悟教授、林櫻松教授(特任)、名古屋大学大学院医学系研究科実社会情報健康医療学講座の中杤昌弘准教授、同センター研究所がん予防研究分野の松尾恵太郎分野長らの研究グループが、国内外の研究機関との共同で行った研究によるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
膵臓がんは、昨今の治療法の進歩にもかかわらず、非常に予後の悪い難治性のがんである。膵臓がんの対策では予防が重要であるが、現在膵臓がんを早期に見つけるためのがん検診で有効なものはない。膵臓がんになりやすくする因子を明らかにし、その上で避けられるものを避けるという一次予防が重要だ。膵臓がんのリスク要因としては喫煙、肥満、糖尿病などが知られている。また、遺伝要因に関しては、一部の膵臓がんが遺伝性であることが知られているが、遺伝子多型に関してはほとんど明らかになっていない。
欧米では、膵臓がんリスクと関連する遺伝子を探索する大規模な全ゲノム関連解析研究が共同研究ベースで実施されているが、アジアにおいては十分な検討が行われていない。そこで、愛知医科大学、名古屋大学、愛知県がんセンターの3者で設立した日本膵臓がん研究コンソーシアム(Japan Pancreatic Cancer Research(JaPAN)consortium)が主体となり、東京大学、理化学研究所、国立がん研究センター、名古屋大学、東北大学、岩手医科大学、京都大学、大阪大学、米国イェール大学、南カリフォルニア大学等の研究機関と共同で、膵臓がん患者約4,000人と非がんの約41,500人を対象に全ゲノム関連解析研究を実施した。
関連が示されたのは「GP2遺伝子多型rs78193826」、東アジア人にはあるが西洋人にはほとんどないことも判明
その結果、16番染色体短腕に位置する「GP2」(glycoprotein2)に存在する遺伝子多型rs78193826が、膵臓がんリスクと関連することが世界で初めて明らかになった。この遺伝子多型は、塩基配列がCからTに置き換わることで、アミノ酸配列が異なるGP2タンパク質ができる結果、GP2タンパク質の働きが変化することで、膵臓がんリスクが上昇する可能性が考えられる。また、興味深いことに、この遺伝子多型は日本人を含む東アジア人では認められるが、西洋人ではほとんど存在せず、東アジアにおける膵臓がんリスクと関連することが示唆された。
さらに、同センター研究所がん標的治療TR分野の細野祥之ユニット長らが実施した細胞株を用いた実験により、膵臓がん組織で高頻度に認められるK-ras遺伝子変異の際に発現が下がる遺伝子群が、GP2遺伝子多型を導入した場合にも同様に発現が下がることが示され、GP2遺伝子多型はK-ras遺伝子変異と同様のメカニズムで膵臓がんのなりやすさに関連している可能性が示唆された。
「研究の結果は、東アジア人における膵臓がん発がんの、これまで明らかにされていなかったメカニズムの解明と、その知見に基づく膵臓がんの予防法開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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