地域のASD有病率、有病率の増加の有無、他の神経発達症の併存率を調査
弘前大学は5月28日、青森県弘前市の5歳児発達健診を毎年実施し、疫学調査を行った結果、自閉スペクトラム症(ASD)の日本における調整有病率は3.22%であることを明らかにし、これまで想定されていた有病率よりも高い数値であることがわかったと発表した。これは、同大大学院医学研究科の斉藤まなぶ准教授(神経精神医学講座)、中村和彦教授(子どものこころの発達研究センター)らの研究グループによるもの。研究成果は、英国の学術誌「Molecular Autism」誌に掲載されている。
画像はリリースより
国際的にASD有病率が増加しているか変化がないかの結論は出ていない。地域の全数調査を用いたASDの疫学研究は国際的にも報告が少なく、国内では現在のDSM-5診断基準(米国精神医学会発行の精神障害の診断と統計マニュアル第5版)における有病率は未だ報告がない。そこで研究グループは、2013年から毎年実施している弘前市の5歳児健診の結果を用いて、1)5歳におけるASDの有病率と、支援のニーズを満たせているか、2)5年累積発生率の4年間の推移から、ASDの有病率に真の増加があるかどうか、3)他の神経発達症の併存がどのくらいの割合で生じているか、を明らかにするため詳しく調べた。
2013~2016年の間に、弘前市の5歳児健診で調査が行われた5,016人を解析の対象とした。3,954人の保護者と教師または保育者(参加率78.8%)がスクリーニングに回答。そのうちスクリーニング陽性だった児と、スクリーニング陰性のうち保護者が検査を希望した児を合わせた559人が発達検査を受け、うち87人がASDと診断された。スクリーニングおよび発達健診に非参加の児を統計学的に調整し、ASDの有病率の推定を算出した。
ASD有病率3.22%、平均5年累積発生率に顕著な増加なし
解析の結果、ASDの粗有病率は1.73%(95%信頼区間(CI)1.37–2.10%)、男女の比率は2.22:1だった。非参加の児を統計学的に調整した後のASDの有病率は3.22%(95%CI 2.66–3.76%)、男女の比率は1.83:1と推定された。3.22%の有病率の推定は、これまでに報告されている2011年の韓国の研究報告の2.64% (95%CI 1.91-3.37%)より高い数値であるが、信頼区間は重複している範囲にある。よって、日本におけるASD有病率が他の国と比較して高いという結果を示すものではない。今回考案されたスクリーニング方法が、発達の偏りをより広く感知できる精度の高い方法を使用した結果であると考えられるという。
また、ASDの平均5年累積発生率は1.31%(95%CI 1.00–1.62%)であることがわかった。これは、4年間の推移においてASDの有意な増加はなく、弘前市においてはASDの顕著な増加はなかったことを表す。
88.5%で発達障害を併存、幅広い発達評価の必要性を示唆
さらに、ASDの88.5%は少なくとも1つの発達障害の併存があり、50.6%に注意欠如多動症、63.2%に発達性協調運動症、36.8%に知的発達症および20.7%に境界知能が併存していることがわかった。ASDと診断された87人のうち、以前ASDと診断されていたのは21人(24%)で66人は未診断だった。5歳までに支援を受けていた59人のうち、38人は別の診断(発達や言葉の遅れ)であった。28人(32%)は5歳までに発達の問題を指摘されておらず療育的介入もなかった。
本研究により、5歳におけるASDの有病率が3.22%と推定され、同じ診断検査や診断基準を用いたにもかかわらず、4年の研究期間では地域においてASDの有意な増加は認めなかった。また、ASDは高頻度で他の発達障害を併存しており、幅広い発達評価を行い、支援に役立てていくことが必要と考えられる。研究グループは、「今後、さらに縦断的研究を行い、適応スキルや精神医学的な長期転帰について調査を継続していきたい」と、述べている。
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