DLL3を標的とした新たな小細胞肺がん治療アプローチが求められている
名古屋大学は2月3日、前臨床研究として、DLL3を分子標的とする小細胞肺がんに対する近赤外光線免疫療法の開発に成功したと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科呼吸器内科学博士課程4年の磯部好孝大学院生(筆頭著者)、高等研究院・最先端イメージング分析センター/医工連携ユニット(若手新分野創成研究ユニット)・医学系研究科呼吸器内科学の佐藤和秀S-YLC特任助教(責任著者)、未来社会創造機構・最先端イメージング分析センター/医工連携ユニット(若手新分野創成研究ユニット)の湯川博特任准教授、医学系研究科呼吸器外科の芳川豊史教授、大学院工学研究科の馬場嘉信教授および国立病院機構名古屋医療センターの長谷川好規院長らの研究グループによるもの。研究成果は、学術出版社Cell PressとThe Lancetから共同発行されている科学誌「EBioMedicine」(電子版)に掲載されている。
画像はリリースより
小細胞肺がんは肺がんの15%を占める高悪性度の腫瘍。手術が困難な、進行した状態で発見されることが多く、抗がん剤治療が必要となることが多い。近年、非小細胞肺がんに対する増殖シグナル阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬、血管新生阻害薬といった分子標的治療が次々開発されているが、小細胞肺がんに対する薬物療法はこの20年の間に大きな変化がなく選択肢も限られているため、効果的で新たな治療法が求められている。
DLL3というタンパク質は成人の体組織には発現せず小細胞肺がんの細胞膜に特異的に発現しているため、小細胞肺がんに対する新たな治療標的として注目されている。DLL3を標的とするRova-Tという薬剤が開発され、臨床試験が行われてきたが、効果と副作用に問題があり、開発中止となった。そのため、DLL3に対する新たなアプローチが求められている。
DLL3は人種を超えて発現、光免疫療法の効果を細胞実験と動物実験で確認
近赤外光線免疫療法は2011年に米国立がんセンター・衛生研究所(National Cancer Institute, National Institutes of Health)の小林久隆博士らが報告した新しいがん治療法。がん細胞が発現するタンパク質を特異的に認識する抗体と光感受物質IR700の複合体を合成し、その複合体が細胞表面の標的タンパク質に結合している状態で690nm付近の近赤外光を照射すると細胞を破壊する。研究グループはこの近赤外光線免疫療法を小細胞肺がんの治療に応用することを試みた。
名古屋大学医学部附属病院で手術を受けた日本人患者のうち、同意が得られた患者の手術検体を用い、腫瘍組織に免疫染色を行った。その結果、小細胞肺がんにおいては8割の患者にDLL3の発現がみられた。白人と日本人の小細胞肺がんの細胞におけるDLL3の発現を比較したところ、どちらの人種の細胞でも同様にDLL3の発現を認め、人種を超えて広く小細胞肺がんに発現していることが示唆された。
続いて、人体に投与された実績のある抗ヒトDLL3抗体:Rovalpituzumabと光感受物質IR700の複合体を合成し、Rovalpituzumab-IR700(Rova-IR700)を作成。Rova-IR700を用い、細胞に対する近赤外光線免疫療法を実施した。顕微鏡で観察したところ、近赤外光の照射後、速やかに細胞の膨張、破裂、細胞死が見られた。標的細胞と非標的細胞に同時に近赤外光を照射したところ、標的細胞のみに細胞死がおこり、非標的細胞には特に影響はなかった。そこで、動物実験で確認したところ、担がんマウスモデルにおいては、明らかな腫瘍の増大抑制と生存の延長が示された。今回の研究成果について、研究グループは、「近赤外光線免疫療法を人の小細胞肺癌治療へ応用する際、基礎的知見として貢献することが期待される」と、述べている。
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