医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > mRNA医薬を用いた脊髄損傷の新たな治療法を開発-東京医歯大

mRNA医薬を用いた脊髄損傷の新たな治療法を開発-東京医歯大

読了時間:約 2分15秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年07月08日 PM12:15

」で脊髄損傷の治療に挑む

東京医科歯科大学は7月4日、新しい核酸医薬として期待されるメッセンジャーRNA(mRNA)医薬を用いて、脊髄損傷後の早期神経機能回復を得ることに成功したと発表した。この研究は同大学生体材料工学研究所生体材料機能医学分野の位髙啓史教授とSamuel Crowley研究員、福島雄大助教らと、ナノ医療イノベーションセンター片岡一則センター長、東京大学大学院工学系研究科内田智士特任助教との共同研究により行われたもの。研究成果は、国際科学誌「Molecular Therapy-Nucleic Acids」オンライン版で公開されている。


画像はリリースより

脊髄損傷は交通事故などで年間5,000人以上が受傷し、累計患者数は15万人以上に達する重篤な外傷。一度損傷を受けた脊髄の自然治癒は困難で、ほとんどの場合、損傷部位から下位の運動・感覚機能の麻痺が永続的に残ってしまうことが大きな問題になっている。現在、iPS細胞由来の神経幹細胞移植など新しい治療法が研究されているものの、実用化に向けてはいまだ多くの課題が残されている。

研究グループはこれまでに、「mRNA医薬」の可能性・将来性に着目し、研究開発を進めてきた。mRNA医薬は、mRNAを薬として直接体内に投与し、mRNAにコードされたタンパク質を標的細胞で発現させることによって治療を行う、新しいタイプの医薬品。今回の研究では、mRNA医薬を脊髄損傷の治療に応用し、神経機能と運動機能の早期回復を試みた。

BDNF mRNAで運動機能の早期回復に成功

今回の研究では、治療用のタンパク質として、神経保護効果を持つ脳由来神経栄養因子(BDNF)を用い、BDNFをコードしたmRNAを脊髄損傷モデルマウスに投与した。mRNAを脊髄組織に送達する方法として、同研究グループが先行研究で開発を進めてきたナノミセル型mRNAキャリアを活用した。

まず、mRNA搭載キャリアをマウスの正常脊髄組織に投与すると、脊髄組織でmRNA由来のタンパク質が投与後3日目をピークに明瞭に発現することが確認された。また、、オリゴデンドロサイトといったニューロンを支持する細胞群にBDNFタンパク質の発現が観察され、mRNAがこれらの細胞に広く取り込まれて周囲にBDNFタンパク質を分泌することがわかった。

次に、脊髄損傷のモデルマウスに対して、受傷直後にBDNF mRNAを損傷部位に投与した結果、無治療群と比べて、受傷後1週から2週にかけて有意な運動機能の早期回復が得られた。また、脊髄の組織学的な解析から、脊髄損傷後の髄鞘構造が無治療群と比べて有意に高い割合で維持されており、BDNFによる神経保護効果が発揮されたことが明らかになった。さらに、脊髄損傷部位では、免疫反応を沈静化する抑制性サイトカインIL-10産生が亢進しており、脊髄損傷によって生じる炎症をBDNF mRNAによって沈静化できる可能性も示された。

今回の、BDNF mRNAによる治療は、脊髄損傷に対する核酸医薬の応用の可能性を示した世界で初めての報告。脊髄損傷は外傷によって直接組織が損傷される(一次損傷)だけでなく、その後、数日から数週の経過で二次的に生じる生体反応によって損傷が拡大することが知られており、BDNF mRNAはその神経保護効果、および抗炎症作用によって、脊髄の二次損傷を最小限に食い止める治療効果が得られたものと考えられる。「mRNA医薬は、神経細胞に直接働きかけ、機能を修復・再生させる新しいタイプの医薬品として、今後は脊髄損傷および脳神経系の疾患・外傷への広範な応用が期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大