ヒバなどの植物から採取される成分「ヒノキチオール」
新潟大学は5月30日、植物由来成分であるヒノキチオールが、肺炎の原因菌である肺炎球菌を殺菌することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科の土門久哲准教授と寺尾豊教授らの研究チームが、大阪大学の川端重忠教授研究室、長崎大学の栁原克紀教授研究室、新潟市西区しおかぜ医院の木村征医師、ならびに小林製薬株式会社中央研究所の國友栄治博士らと共同で行ったもの。研究成果は、国際学術誌「Microbiology and Immunology」に掲載されている。
画像はリリースより
肺炎は日本人の死因の第3位であり、年間約12万人が亡くなっている。特に65歳以上の高齢者では肺炎が重症化しやすく、死亡のリスクも高いと報告されている。主な肺炎の原因菌は肺炎球菌だが、抗生物質の頻用が一因となり、抗生物質が効きにくい耐性菌が年々増加。結果として、耐性菌が肺炎の治療における大きな障害となっている。
研究チームは、肺炎の重症化メカニズム、およびその予防・治療法について研究しており、今回の研究では、ヒバなどの植物から採取される成分であるヒノキチオールが肺炎球菌を殺菌するかについて解析した。
肺炎球菌株に対して殺菌作用を発揮する一方、ヒト細胞に対しては低毒性
研究チームはまず、複数の肺炎球菌株に、さまざまな濃度のヒノキチオールを24時間作用させ、菌の増殖に及ぼす作用について解析。その結果、既存の抗生物質が効く肺炎球菌だけでなく、抗菌薬の効きにくい肺炎球菌に対しても、ヒノキチオールは増殖抑制作用を示した。また、肺炎球菌以外にも、う蝕(むし歯)や歯周病の原因菌、およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌などに対しても、ヒノキチオールは殺菌効果を示した。一方で、ヒトの細胞に対しては傷害作用を示さなかったという。これらの結果から、ヒノキチオールが耐性菌を含むさまざまな病原細菌に対して抗菌作用を発揮すること、そして、ヒト細胞に対しては低毒性であることが明らかとなった。
近年、既存の抗菌薬の不適切な使用により、世界的にも薬剤耐性菌による感染症が増加している。その一方で、新たな抗菌薬の開発は減少しており、国際社会において大きな課題となっている。
研究グループは、「ヒノキチオールは優れた抗菌作用を有しているため、さまざまな感染症の治療に利用できる可能性がある。今後は、肺炎を誘発したマウスにヒノキチオールを投与した際の治療効果を解析することにより、創薬研究につなげていきたいと考えている」と、述べている。
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