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核酸医薬搭載ナノマシン開発に成功、安定した核酸デリバリーが可能に-東大ら

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2019年05月07日 PM12:15

「生体バリア」に囲われ、核酸デリバリーが困難とされる難治がん

東京大学は4月25日、失活しやすい核酸医薬を血流中で安定に保護し、膵臓がんや脳腫瘍などの難治がんへ送り届けるための技術「核酸医薬搭載ナノマシン」の開発に成功したと発表した。この研究は、同大未来ビジョン研究センターの片岡一則特任教授(川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター長)、同大大学院工学系研究科の宮田完二郎准教授、名古屋大学大学院医学系研究科の近藤豊教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより

Small interfering RNA(siRNA)に代表される核酸医薬は、その塩基配列に応じて特定の遺伝子発現を調節できることから、がんやアルツハイマー病などの遺伝子変異に由来する難病に対する新規治療薬として期待されている。一方で、核酸医薬は代謝されやすいため、疾患組織への到達効率が低く、十分な治療効果が得られないという問題がある。この問題を解決する技術として、核酸医薬のドラッグデリバリーシステムが研究されている。2018年にsiRNAを内包した脂質ナノ粒子が、肝臓を標的とする世界初のsiRNA医薬(トランスサイレチン型家族性アミロイドーシス治療薬)として承認されている。その一方で、肝臓以外の標的臓器/組織への核酸デリバリーに関しては、いまだに課題が残されている。この理由のひとつとして、サイズが約100nmと大きい脂質ナノ粒子は、腫瘍組織内を効率良く浸透できないことが挙げられる。肝臓では血管から組織側への隙間が非常に大きいため、脂質ナノ粒子は血流を通じて肝細胞へと容易にアクセスすることができる。一方、膵臓がんの場合、血管とがん細胞の間に線維性の間質組織(メッシュ構造)が張り巡らされおり、脂質ナノ粒子の腫瘍組織透過性は大きく低下する。同様に、脳腫瘍組織の場合、血管壁の隙間がもともと小さいためにナノ粒子の脳実質部もしくは脳腫瘍組織への移行は著しく制限されることから、一種の「生体バリア」で囲われた膵臓がんや脳腫瘍への核酸デリバリーは非常に困難であると考えられてきた。

「生体内ランデブー」で核酸医薬を安定に保護し難治がんへ

今回開発された「核酸医薬搭載ナノマシン」は、生体バリアを突破して核酸医薬を膵臓がんや脳腫瘍へデリバリーすることを目指して開発された。このナノマシンは、形と長さが精密に調節されたポリマー1~2分子と核酸医薬1分子から形成されるため、脂質ナノ粒子と比べてサイズが小さい(抗体医薬と同等の約20nm)という特徴がある。この小型化により、同ナノマシンは膵臓がんの間質組織や脳腫瘍の血管壁を潜り抜けることが可能になる。同ナノマシンのもうひとつの特徴は、血流中で核酸医薬を安定に保護する機能。今回創られたポリマーは、Y字型でデザインされている。Y字のうち、2本の枝は、生体適合性に優れるポリマー(ポリエチレングリコール)でできている。残りの1本の枝は、核酸医薬とドッキングするポリマー(ポリリシン)でできている。それぞれの枝の長さを調節することにより、Y字型ポリマーは、血液中でのランデブーによって選択的に核酸医薬にドッキングする一方で、それ以外の生体成分との相互作用は低く抑えられている。その結果、Y字型ポリマーは、血流中で入れ替わりながら核酸医薬とランデブーし、動的かつ安定なナノマシンを形成することができる。研究グループは、この作用を核酸医薬と高分子材料の「生体内ランデブー」と名付けた。

実際に、同ナノマシンを用いてがん細胞に細胞死を誘導するsiRNAおよびアンチセンス核酸をデリバリーしたところ、膵臓がん組織や脳腫瘍に効果的に集積する様子を確認。さらに、自然発生膵臓がんモデルマウスや脳腫瘍同所移植モデルマウスに対する著明な延命効果が認められたという。とりわけ、脳腫瘍モデルマウスに対しては、全例を生存させることに成功。現在、研究グループらが設立したベンチャー企業で、同ナノマシンを医薬品として実用化するための取り組みが進められている。同ナノマシンは、膵臓がんや脳腫瘍などの難治がんへの新たな核酸医薬治療につながるものと大きく期待されると研究グループは述べている。

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