寄生虫による肥満抑制メカニズムを科学的に検証
群馬大学は4月9日、寄生虫が体重増加を抑制するメカニズムを、世界で初めて科学的に証明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の下川周子助教と、国立感染症研究所の久枝一部長らの共同研究グループによるもの。研究成果は、米国の科学雑誌「Infection and Immunity」のオンライン版に、4月8日付で掲載された。
画像はリリースより
腸管に寄生する寄生虫は、さまざまな免疫応答を変化させることで免疫の異常、エラーによって起きる多くの病気を抑制する。実際、これまで種々の自己免疫疾患やアレルギーを抑制する力があることが報告されてきた。今回研究グループは、慢性炎症のひとつとして知られる「肥満」に着目。寄生虫によって痩せるという話は昔から存在するものの、実際に寄生虫がいると本当に痩せるのか、その時に健康被害は出ないのか、不明な点が多いのが現状だった。
腸内細菌叢の変化でノルエピネフリンが増加
研究グループはまず、マウスに高脂肪食を1か月間与えて太らせたのち、小腸に寄生するある種の寄生虫を感染させた。その結果、体重の増加が抑えられ、脂肪量も低下し、血中の中性脂肪や遊離脂肪酸が優位に低下した。理由を探るために、感染マウスと非感染マウスで食事量を比較したが、食事量に差は認められなかった。そこで、エネルギー代謝に変化があるかどうか調べたところ、感染マウスでは、エネルギー代謝に関係する脂肪細胞内のタンパク質「UCP1」の発現が、通常のマウスと比べて有意に増加していた。UCP1の発現が上昇すると、熱産生が高まり、脂肪細胞は脂肪の燃焼に働くようになる。さらに詳しく調べたところ、感染マウスではUCP1の発現上昇にともない、ノルエピネフリンが増加することで交感神経が活性化し、脂肪を燃焼方向へ働かせていることが明らかになった。
次に、寄生虫がどのように神経系へ働いているのかを検討した。この寄生虫は腸管に寄生するため、腸内細菌に着目し、高脂肪食を与えただけのマウスと、それに寄生虫を感染させたマウスの腸内細菌叢を次世代シーケンサーで解析し、違いがあるか比較した。その結果、感染マウスにおいて、バシラス属やエシェリキア属といった、ノルエピネフリンを分泌させるような腸内細菌が優位に増加していることが判明した。
以上の結果から、腸管に寄生する寄生虫がマウスの腸内細菌叢を変化させ、神経伝達物質であるノルエピネフリンを分泌するような特殊な腸内細菌を増加させること、それによって交感神経が優位になり脂肪細胞を熱産生へと働かせるUCP1の発現を上昇させ、体重の増加を抑えるという一連の流れが、世界で初めて明らかになった。今回解明されたメカニズムを利用することで、肥満に対する新しい治療法の確立につながることが期待されると、研究グループは述べている。
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・群馬大学 プレスリリース