肺腺がんで過剰発現するSFNタンパク質を創薬標的に
筑波大学は2月5日、肺腺がんで過剰発現しているタンパク質stratifin(SFN)が、ユビキチン化酵素の一部であるSKP1と結合し、がん細胞の増殖を促すタンパク質群(Cyclin E1, c-Mycなど)の分解を抑制することで肺腺がんの悪性化を引き起こしていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系の野口雅之教授、柴綾助教と産業技術総合研究所創薬分子プロファイリング研究センターの広川貴次研究チーム長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical Cancer Research」に2月6日付で公開された。
画像はリリースより
肺腺がんは、前がん病変や非浸潤性の上皮内がんを経て、多段階的に悪性化する。上皮内がんは術後5年生存率が100%であるのに対し、浸潤性腺がんになると4分の1の患者は死亡する。同研究グループは、これまでに、上皮内がんに比べて浸潤性腺がんでの発現が有意に高い遺伝子として、SFNを見出した。今回の研究は、このSFNが肺腺がんの発がんや悪性化を引き起こすメカニズムの解明と、SFNを標的とした新規抗がん剤開発を目指して行われた。
SFN阻害薬に抗がん作用、既存薬再開発の可能性も
同研究グループは先行研究で、肺腺がんではSFNタンパク質がユビキチン化酵素の一部であるSKP1に結合することを明らかにしていた。今回の研究では、SFNは、SKP1に結合してユビキチン化酵素SCF(FBW7)複合体の形成を阻害して機能を抑制することがわかった。結果的に、この酵素が本来ユビキチン化の標的とする、細胞増殖を促進するタンパク質群(cyclin E1やc-Mycなど)が正常に分解されず、細胞内に蓄積することが確認された。
さらに研究グループは、SFNとSKP1の結合を阻害できる化合物は抗がん作用を持つ可能性があると考え、インシリコ解析技術を利用して、SFNとSKP1の結合部位やSFNタンパク質内のドラッガブルポケットを見出した。この結果を基に、4,000を超える上市薬ライブラリーから、SFN阻害薬となり得る化合物をインシリコスクリーニング法で探索した。結果、制吐剤Aprepitantと抗血小板薬TicagrelorをSFN阻害薬候補として見出した。次いで、両剤が抗がん作用を持つことも動物実験で確認した。これは、既存薬再開発で抗がん剤開発が可能であることを示唆している。
SFNは初期がんの段階から広く発現しているタンパク質。進行がんに限らず、これまで外科手術以外の治療法が確立されていなかった初期肺腺がんに対する薬物治療として、SFN阻害薬は有望な候補となる。研究グループは今後、免疫チェックポイント阻害薬との併剤に向けた前臨床試験、および臨床試験に向けて準備を進める予定としている。
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・筑波大学 プレスリリース