中耳炎患者から分離された2,608株の肺炎球菌を対象に研究
新潟大学は10月2日、市中肺炎球菌の8割以上がマクロライド系抗生物質に耐性であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科(歯学系院生)の永井康介歯科医師(米国留学中)と同研究科の土門久哲助教、寺尾豊教授が、新潟市西区しおかぜ医院の木村征医師と共同で行ったもの。研究成果は、国際科学雑誌の「Journal of Infection and Chemotherapy」電子版で公開された。
画像はリリースより
肺炎球菌は、高齢者らに肺炎を起こすほか、小児らに中耳炎を引き起こす。以前は、抗生物質がよく奏効していたが、抗生物質の頻用が一因となり、年々抗生物質が効きにくい耐性菌が増えている。さらに近年、国内では肺炎による毎年の死亡者数が10万人を超え、死因の第3位になった。肺炎による死亡率は高齢者で高く、肺炎による死亡者の95%を65歳以上が占める。高齢社会を迎えた今日では、肺炎の主な原因菌の肺炎球菌について、薬剤耐性度を正しく理解し、その対策を講じることは重要な課題となっている。
そこで研究グループは、2014~2017年に新潟市の中耳炎患者から分離された2,608株の肺炎球菌を対象に研究を行った。
ペニシリン耐性菌も38%、多剤耐性菌が市中に分布
研究の結果、2,608株の肺炎球菌のうち、82%がマクロライド系抗生物質の効かない耐性菌と判明。これまでは、大規模病院の入院患者らに耐性菌が増加していると考えられていたが、市中で日常生活を過ごす人達にも、マクロライド系抗生物質が効かない耐性肺炎球菌が広く流布していることが示された。さらに、38%はペニシリン耐性菌であること、そして両方の抗生物質が効かない菌やニューキノロン系抗生物質にも耐性な多剤耐性菌も市中に分布していることが明らかになったという。
日本政府は、抗生物質の使用削減を含めた「AMR(薬剤耐性)アクションプラン」を制定している。とくに、経口マクロライド系抗生物質は国内使用量が多く、政府は2020年までにその使用量を半減させる目標を掲げている。今回の成果は、マクロライド系抗生物質の使用制限の必要性を科学的に証明した研究となった。研究グループは、抗生物質に頼らない新規治療法や予防法の開発を進める一方で、AMRの知識を啓発する活動も展開しているとしている。
▼関連リンク
・新潟大学 研究成果