ピッツバーグ大学の死後脳バンクを利用して研究を実施
金沢大学は9月25日、統合失調症患者では、複数の大脳皮質の部位で特定の神経細胞の変化が共通して認められることを世界で初めて報告したと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系精神行動科学の橋本隆紀准教授、坪本真大学院生らの研究グループが、米ピッツバーグ大学精神医学部門のDavid A. Lewis教授らと共同で行ったもの。研究成果は英神経科学専門雑誌「Cerebral Cortex」のオンライン版に掲載された。
画像はリリースより
今回の研究は、死後に遺族の同意により提供された脳が保存されているピッツバーグ大学の死後脳バンクを利用して実施。性別、年齢などの条件が等しい健常者と統合失調症患者20ペア、計40名の死後脳から作業記憶神経ネットワークに含まれる一次視覚野、二次視覚野、後部頭頂野、背外側前頭前野の4つの部位をそれぞれ切り出して、GABA細胞の3つのグループに特徴的に発現する分子(パルブアルブミン、ソマトスタチン、VIP、KCNS3カリウムチャネルサブユニット、μ型オピオイド受容体(MOR)、LHX6転写調節因子、カルレチニン、GABA合成酵素GAD67)の発現量をリアルタイムPCR法という分子生物学の手法を用いて解析した。
パルブアルブミンとソマトスタチンは統合失調症の背外側前頭前野で変化が認められる2つのGABA細胞のグループにそれぞれ特異的に発現しており、KCNS3はパルブアルブミン細胞に、MORとLHX6はパルブアルブミン細胞とソマトスタチン細胞に共通して発現している。これらの分子は、統合失調症の背外側前頭前野で変化しており、パルブアルブミン細胞とソマトスタチン細胞の変化を示していると考えられている。一方、VIP細胞に発現するVIPとカルレチニンは、統合失調症の背外側前頭前野では変化が認められていない。
神経細胞の変化が認知機能障害に関与
今回の解析の結果、パルブアルブミン細胞とソマトスタチン細胞に発現する分子の発現量の変化が、作業記憶の神経ネットワークを形成する4つの脳部位で共通して見られることが判明。また、変化の大きさには部位による差がなく、これらの細胞が各領域で一様に変化していることが判明した。大脳皮質においてパルブアルブミン細胞は、ほかの細胞の活動を同期化することで情報処理の効率化を担っており、ソマトスタチン細胞は情報の選択統合をコントロールしていることが知られている。すなわち、統合失調症におけるこれらの細胞の変化は、神経ネットワークにおける情報処理を低下させ、作業記憶障害に結び付いていると考えられる。
今回認められた変化は、多くの患者で自立や社会復帰への妨げとなっている認知機能障害に関与していると考えられる。この知見は、統合失調症の認知機能障害に対し、特定の細胞を標的とした新たな治療法の開発につながるものと期待される、と研究グループは述べている。
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