炎症性サイトカインを抑える「マイクロRNA」を全身投与
大阪大学は8月10日、炎症性サイトカインを抑えることが知られているマイクロRNAの全身投与によって炎症性腸疾患(IBD)を罹患したマウスの治療に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の山本浩文教授(消化器外科学/保健学科分子病理学)と水島恒和寄附講座教授(炎症性腸疾患治療学)らの研究グループによるもの。研究成果は「Molecular Therapy-Nucleic Acids」に掲載されている。
画像はリリースより
国内で、クローン病や潰瘍性大腸炎などのIBDに悩まされる患者数は上昇の一途をたどっている。これらの疾患は、TNFαやIL6を含むさまざまな炎症性サイトカインが腸管壁を傷害して発症するため、サイトカインのシグナル経路が治療の標的になる。抗サイトカイン療法やサリチル酸やステロイドなどの古典的な薬物治療によって一時的に緩解を得られる場合もあるが、再発などのために外科治療が必要になるケースも後を絶たず、新たな治療法の開発が継続的に求められている。これらの炎症性サイトカインの産生を抑制するマイクロRNAは複数明らかとなっているが、マイクロRNAを安定して効率よく患部に送達する方法はなかった。
効率よく炎症腸管の樹状細胞に送達、炎症性サイトカインの産生を抑制
これまでに研究グループは、固形がんの治療法開発において、マイクロRNA等の核酸をスーパーアパタイトのナノ粒子と結合させる「スーパーアパタイト法」を用いた、優れた核酸デリバリー効果を報告してきた。今回の研究では、2%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)水溶液の自由給水によりIBDモデルマウスを作製し、炎症性サイトカインの産生を抑制することが知られているマイクロRNA(miR)-29aおよびmiR-29bに着目し、効果を検証した。同法を用いてmiR-29aまたはmiR-29bをIBDモデルマウスに全身投与したところ、マイクロRNAが炎症腸管にあまり集積しないにも関わらず、炎症性サイトカインが減少し、腸炎の予防と予想以上の治療効果が示された。さらにマウスの腸管を調べたところ、スーパーアパタイトに搭載したマイクロRNAが効率よく炎症腸管の樹状細胞に送達され、炎症性サイトカインの産生を抑制していることが明らかとなった。
今回の結果から、スーパーアパタイト法が炎症部位の樹状細胞へと核酸医薬を輸送する特異なドラッグデリバリーシステム(DDS)として機能し、炎症反応を分子レベルで抑えることで腸炎の予防・治療効果を示すことが明らかとなった。スーパーアパタイト法は、炎症性腸疾患はもとより、炎症反応が関与するさまざまな疾病に対する応用が可能で、これらの疾病に対する新たな治療薬の開発が期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪大学 研究情報