脊髄の中に移植細胞を直接注入するよりも効果的か
京都大学は7月25日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療には、これまでのように脊髄の中に移植細胞を直接注入するよりも「表面に置くだけ」の方が、害も少なくより効果的である可能性が高いことを提唱したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の関谷徹治研究生(彦根中央病院脳神経外科医師)らの研究グループによるもの。研究成果は「Trends in Neurosciences」に掲載された。
ALSなどの神経難病の治療として、細胞移植の試みは有望な治療方法のひとつとして広く研究が行われてきた。しかし、従来の「移植細胞を神経組織の中に注射器で直接注入する」という方法は、本当にベストな移植方法であるのかはよくわかっていなかった。
また、研究グループは2015年に、傷ついた聴神経の上に細胞を置くだけの「表面移植法」によって、聴神経機能を回復させる実験を成功させ、中枢神経内の瘢痕の中にあるアストログリアが神経再生のために大きな役割を果たすことを証明している。
麻痺を避けて筋肉の機能を回復できる可能性
ALSで亡くなった患者の脊髄には、中枢神経組織に「瘢痕」の突起ができている。この瘢痕の突起とシュワン細胞が帯状に長くつながる現象があることも知られてきたが、研究グループはこれを細胞移植の観点から「アストログリア突起・シュワン細胞複合体」と命名。この複合体の上に細胞を表面移植すれば、神経突起が複合体に沿って伸びて筋肉とつながる可能性がある。神経突起が筋肉とつながれば、ALS患者の筋肉機能が回復することにつながる。このようなアイデアは、今後の実験的・臨床的検討に値するものだと考えられるとしている。
画像はリリースより
これまでにALS患者の脊髄内に細胞を直接注入したところ、両下肢が麻痺したという報告があるが、表面移植法ではこのような事態を避けて筋肉の機能回復を図ることができる可能性があるという。ただし、神経系の深い部分に病気ができる場合には、表面移植法がどの程度使えるかが今後の検討課題だとしている。このような深部にある病変の場合でも、従来から神経再生を邪魔するものと考えられてきた瘢痕が実は役立つという報告も出てきていることから、深部にある瘢痕の表面が移植された細胞にとって重要な意味を持つ可能性がある、と研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果