腸内からの検出は少なく感染経路が不明なF.nucleatum
横浜市立大学は6月28日、大腸がん患者の患部組織と唾液から細菌「Fusobacterium nucleatum(F.nucleatum)」を分離・解析した結果、4割以上の患者でがん組織と唾液に共通した菌株が存在していることを発見したと発表した。この研究は、同大学術院医学群肝胆膵消化器病学の日暮琢磨診療講師と、協同乳業株式会社の松本光晴主幹研究員らの共同研究グループによるもの。研究成果は、英消化器病学会の機関誌「Gut」に掲載された。
画像はリリースより
次世代型DNAシークエンサーの普及とともに、大腸がんの病態に関わる腸内細菌の研究が世界的に進められている。これに伴い2012年以降、F.nucleatumが大腸がんの病態や予後に悪影響を及ぼすという報告例が増え、注目されている。しかし、従来F.nucleatumがヒト腸内から検出されることは少なく、大腸がんにおける同菌の感染経路はわかっていなかった。
8名中6名で大腸がん組織と唾液から同一菌株が検出
研究グループは、F.nucleatumが口腔内環境で優先菌種であることに着目し、口腔内F.nucleatumが大腸(がん)組織へ移行しているという仮説を立てた。そこで、直近の抗生物質使用歴がないなどの条件で選抜された患者14名を対象に、内視鏡を用いて採取した大腸がん組織および唾液検体を、F.nucleatum選択培地を用いて分離し、計1,351分離菌を解析。その結果、患者8名(57%)に、大腸がん組織と唾液の両方からF.nucleatumが検出されたという。
次に、その8名の検体より分離されたF.nucleatumを対象に、AP-PCR法を用いて菌株レベルで解析。その結果、8名中6名の検体で、大腸がん組織と唾液の両方から同一菌株が検出されたという。これは全被験者の43%、大腸がんからF.nucleatumが検出された患者母集団では75%に相当する。この結果は、大腸がんで高頻度に検出され、大腸がん悪化への関与が強く疑われるF.nucleatumが、口腔内に由来することを強く示唆しているという。
F.nucleatumは、健常人でも多くの人が口腔内に保有している常在菌の一種で、歯周病の増悪化にも関与することが報告されている。今回の研究で、口腔内と大腸がん組織における同菌の菌株が一致したことにより、口腔内のF.nucleatumが大腸がん組織に移行・感染していることが示された、と研究グループは述べている。しかし、現時点では詳細な移行・感染ルートなど不明な点もあることから、これらの解明は今後の検討課題としている。
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