高精度ながん治療に欠かせない「がん血管構造」の継続的な観察
量子科学技術研究開発機構(量研)は6月6日、生体内のがん内部の血管構造を立体的かつ高精細に可視化し、治療による血管構造の変化を安全に長期間追跡することに成功したと発表した。この研究は、量研QST未来ラボの青木伊知男グループリーダーと新田展大技術員、徳島大学大学院医歯薬学研究部放射線医学分野の原田雅史教授と共同で行われたもの。研究成果は、国際的学術雑誌「Nanomedicine: Nanotechnology,Biology and Medicine」のオンラインに暫定公開され、出版予定の6月号にて公開される予定。
画像はリリースより
がんはその周囲に特殊な血管構造を形成し、その構造は、増殖治療に対する抵抗性に関連するとされている。例えば、膵臓がんやスキルス胃がんなど、抗がん剤が効きにくいがんでは、がん細胞をバリアーするように周辺にたくさんの間質細胞が存在したり、線維化したりして、薬が届きにくくなる。また、血管が少なく酸素が届きにくいがんでは、薬剤や放射線に抵抗性を獲得する細胞が生じ、それが再発や転移など予後の悪化に繋がることが指摘されている。
そのため、より高精度ながん治療には、治療を困難にするがんの血管構造を治療前や治療中にも観察して、適切な治療方法を選択する必要がある。しかし、がんの診断に用いられるポジトロン断層画像法(PET)では解像度が足りず、微細な血管構造を描出することが難しい。また、X線CTは高い解像度を持つが、検査あたりの被ばく線量が多くなるため、高頻度の撮影は推奨されていない。これらのことから、既存の技術でがんの血管構造を長期間にわたって安全に観察する方法は困難であるとされてきた。
がん内部の小さな血管の立体構造を明瞭に描出
研究グループは、高感度のナノ粒子型MRI造影剤に、高い信号が得られる高磁場MRI(7テスラ=70000ガウス)とノイズ信号を少なくできる特殊な受信コイルを組み合わせることで、がんの内部の血管構造を50µm(1µm=1mmの1/1000)の高い解像度で、三次元的かつ安全に可視化する技術を開発した。さらに、大腸がんを皮下に移植したマウスにナノ粒子型MRI造影剤を投与して、高磁場MRIを使って血管造影法で撮影した結果、がんの内部の小さな血管の立体構造が明瞭に描出されたという。また、がんの血管形成を抑制する抗がん剤(スニチニブ)を投与し、がん内部の血管構造の変化や、ナノ粒子型MRI造影剤の分布を10日間にわたって追跡することにも成功した。
今回の成果は、がん治療中の内部の変化を詳細に観察し、その情報に基づいて治療効果を予測・評価することで最適な治療を早期的に選ぶ「見ながら治療(Theranostics)」という未来の医療の実現に対して、大きな貢献が期待できる、と研究グループは述べている。
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・量子科学技術研究開発機構 プレスリリース