アルツハイマー病患者脳で異常活性化するアストロサイト
日本医療研究開発機構は1月8日、アルツハイマー病の原因タンパク質であるアミロイドβを分解する新規酵素としてkallikrein-related peptidase 7を同定し、脳内ではアストロサイトが分泌しており、アルツハイマー病患者の脳ではその発現量が低下していることを明らかにしたと発表した。この研究は、東京大学大学院薬学系研究科の富田泰輔教授、木棚究特別研究員、建部卓也元大学院生らのグループが、第一三共株式会社、新潟大学脳研究所、理化学研究所脳科学総合研究センターと共同で行ったもの。研究成果は「EMBO Molecular Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
認知症の半分以上はアルツハイマー病によって生じる。これまでの研究からアルツハイマー病の原因として、神経細胞が分泌するタンパク質アミロイドβが老人斑として蓄積し、神経細胞内に存在するタウの異常凝集を引き起こして神経細胞死に至ると考えられており、アミロイドβやタウを標的とした創薬が進められている。
アストロサイトは脳内の免疫や炎症をつかさどるグリア細胞の一種であり、ヒトにおいては神経細胞の十倍以上存在することが知られている。アルツハイマー病患者脳においてはアストロサイトの異常活性化が認められているが、これまでこの反応はアミロイドβやタウ蓄積、また神経細胞死に呼応して生じる炎症性反応と理解され、アストロサイトがアルツハイマー病の病態形成そのものに深く関わっているとは考えられていなかったという。
Klk7ノックアウトモデルマウスではアミロイドの蓄積が亢進
研究グループは今回、アストロサイトがアルツハイマー病におけるアミロイド病理に直接影響するかどうかを検討した。その結果、アストロサイトの培養上清にアミロイドβを分解する活性が存在することを発見。薬理学的、遺伝学的な解析から、その責任酵素としてkallikrein-related peptidase 7(KLK7)という分泌型のプロテアーゼを同定した。このKLK7は、脳内ではアストロサイトが分泌しており、アルツハイマー病患者脳ではKLK7の発現量が低下していることが明らかになったという。
さらに、Klk7をノックアウトしたモデルマウスにおいては、アミロイドの蓄積が亢進することが判明。加えて、アストロサイトにおけるグルタミン酸シグナルを抑制することでKLK7の発現量と分解活性を上昇させることができることを見出したとしている。
今回の研究では、その病的意義が不明であったアストロサイトが脳内アミロイドβ量や蓄積に積極的に関与していることが明らかとなり、神経が失われていくアルツハイマー病脳において、残存しているアストロサイトを上手く活用する新しい可能性が提示された。また、アストロサイトにおけるKLK7発現量を制御するメカニズムとしてアミロイドβそのものやグルタミン酸シグナルを同定したことから、研究グループは「細胞内シグナル伝達機構を解明することで新規治療薬・予防法の開発につながることが期待される」と述べている。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース