不明な点が多い腸内細菌叢の乱れと疾患発症のメカニズム
慶応大学は10月20日、腸内細菌叢の乱れに乗じて、口腔に存在するクレブシエラ菌が腸管内に定着することで、免疫細胞の過剰な活性化を引き起こし、クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患などの発症に関与する可能性があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部の本田賢也教授(理化学研究所統合生命医科学研究センター消化管恒常性研究チームリーダー兼任)と早稲田大学理工学術院の服部正平教授らを中心とする共同研究グループによるもの。研究成果は「Science」に掲載されている。
画像はリリースより
消化管や口腔などには多様な常在細菌が存在し、ヒトの免疫系や生理機能に強い影響を与えることで、健康維持に大きな役割を果たしている。そのため、腸内に存在するさまざまな細菌種の数や割合の変動が炎症性腸疾患をはじめとするさまざまな病気の発症に関与していることが強く示唆されているが、腸内細菌叢の乱れが疾患発症につながるまでのメカニズムには、不明な点が多く残されている。
健常者でも腸管へのクレブシエラ属菌の定着が起こる可能性
研究グループは、口腔細菌が炎症性腸疾患や大腸がんなどの患者の便中に多く検出されることに注目し、口腔細菌が腸管内に定着することによる腸管免疫系への影響と病気との関わりについて研究を行った。その結果、あるクローン病患者の唾液を投与したマウスの大腸において、インターフェロンガンマ(IFN-γ)を産生するCD4陽性のヘルパーT 細胞(TH1細胞)が顕著に増加していることを発見。さらに、クラブシエラ属のクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)がTH1細胞を強く誘導する細菌であること解明した。また、潰瘍性大腸炎の患者の唾液を無菌マウスに投与する実験を行ったところ、クローン病患者の唾液投与マウスと同様に腸管でのクレブシエラ属菌の定着とTH1細胞の増加が観察された。さらに、健常者の唾液を用いた実験においても、腸管でのクレブシエラ・ニューモニエの定着とTH1細胞の増加が観察された。
今回の研究成果により、例えば長期的に過剰量の抗生物質を服用した場合には健常者でも腸管へのクレブシエラ属菌の定着が起こる可能性があり、過度な抗生物質の服用には気をつけるべきだと考えられる、と研究グループは述べている。今後は、クレブシエラ属細菌を選択的に排除・殺菌する抗生物質などの開発やクレブシエラ属細菌が腸管内に定着させないような薬剤の開発を通して、これら疾患の予防法や治療薬の開発が期待される。
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