がんの個別化免疫治療などで期待されるmRNAワクチン
ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は10月11日、mRNAに免疫賦活化作用が強い2本鎖RNA構造を組み込むことで、アジュバント機能を一体化させたmRNAワクチンを開発したと発表した。この研究は、東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻特任助教で同センター客員研究員の内田智士客員研究員、東京医科歯科大学生体材料工学研究所生体材料機能医学分野教授で同センター主幹研究員の位髙啓史主幹研究員らによるもの。研究成果は、「Biomaterials」に掲載された。
画像はリリースより
タンパク質を作りだすmRNAを用いたmRNAワクチンは、新型インフルエンザ、ジカ熱などの新興(再興)感染症の予防や、がんの個別化免疫治療で期待されており、すでに第3相臨床試験に進んでいる例もある。ワクチンが効果を示すには、免疫を賦活化させる必要があるが、そのために免疫賦活化物質のアジュバントを合わせて投与する。しかし、これまでmRNAワクチンに適したアジュバントはなかった。
従来のmRNAワクチンと比べて細胞性免疫など効果的に誘導
研究グループは、mRNAに免疫賦活化作用が強い2本鎖RNA構造を組み込み、アジュバント機能を一体化させたmRNAワクチンを開発した。さまざまな設計を検討した結果、mRNAのポリアデニン配列の部分に対して、その相補鎖であるポリウラシルを結合させることで、mRNAからの抗原タンパク質の翻訳活性を保ったまま、強い免疫賦活化作用が得られることを発見したという。
実際に、マウスに投与したところ、リンパ節でワクチン効果に重要な樹状細胞の増殖を促すことに成功。さらに、がんに対する免疫に必要とされる細胞性免疫や、感染症に対する免疫に必要とされる液性免疫を、従来のmRNAワクチンと比べて、より効果的に誘導できることが明らかになったという。また、ヒト由来の免疫細胞に対しても、強い免疫賦活化作用が得られることが確認され、将来の臨床応用も有望だとしている。
このシステムは、mRNAとアジュバント機能が一体化されており、さまざまな送達キャリアに簡単に搭載でき、汎用性に優れる。また、RNA分子だけを構成成分としていることから、投与して数日以内に体の中で分解され、安全だという。RNAは、本来体の中にある物質なので、臨床応用にも適しているとしている。
mRNAワクチンは、皮下注射、静脈内注射、経口投与といったさまざまな経路で、さまざまな添加物とともに投与されるが、今回の技術は、そのほぼ全ての場面に応用できるものだとという。研究グループは今後、今回のシステムを実際の疾患の予防や治療に用いて、臨床応用に向けて研究・開発を進めていく予定としている。