5年生存率20%以下の胆道がん
国立がん研究センターは8月3日、シンガポールのグループと共同で、世界10か国から総計489症例の胆道がん症例について分子データを集積し、統合的解析を実施、その結果を発表した。この研究は、同研究所がんゲノミクス研究分野が参画している「国際がんゲノムコンソーシアム」(ICGC)の活動の一環として行われたもの。研究成果は、国際科学誌「Cancer Discovery」オンライン版で公開されている。
画像はリリースより
胆道がんは、日本をはじめアジアに多いがんで、膵がんに次いで予後が不良(5年生存率は20%以下)な難治がん。胆石や胆嚢・胆管炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、原発性硬化性胆管炎、膵胆管合流異常症などの胆道系疾患にかかったことがある場合や、海外では肝吸虫という寄生虫の感染により、胆道がんのリスクが上昇する。しかし、こうした因子がどのようにがんを発症するのかに関する分子メカニズムはわかっていない。また、胆道がんでは分子標的治療薬が承認されていないことから、基礎研究並びに臨床開発研究が求められている。
4つの分子グループに分類、各タイプに特徴的な治療標的分子を発見
胆道がん総計489症例について、ゲノム・エピゲノム・遺伝子発現に関する包括的なシークエンス解析をおこなった結果、新規のものも含め、胆道がんのゲノム異常を網羅的に同定。また、得られた分子データを基に検討を行い、生命予後と有意に相関する4つの分子タイプグループに分類できることが判明した。各グループは、臨床的な背景(グループ1は肝吸虫感染が多い)や、治療標的となる分子(グループ1はHER2増幅、グループ2はWNT経路活性化、グループ3は免疫チェックポイント遺伝子(PD-1、PD-L2)の発現増加、グループ4はIDH1変異やFGFR2融合遺伝子がそれぞれ有意に多い)について特徴的な違いが見られたという。各タイプに特徴的な治療標的分子を発見したことにより、グループごとに治療法を最適化していくことが必要であることが示唆された。さらに、この分類は生命予後とも相関し、グループ4に含まれる症例は、他のグループよりも予後が比較的良好なことがわかったという。
また、これまで明らかになっていなかった胆道がん発症の分子メカニズムについて、2つの発症メカニズムを同定したという。グループ1の症例は、肝吸虫感染を契機とした慢性炎症を背景としたメチル化異常によって遺伝子変異が誘発され、がんが発生するという経路が示唆された。一方、グループ4の症例は、最初に重要なドライバー遺伝子に異常が起こり、その結果として特徴的なメチル化異常を併発しながらがんが発生するという経路が考えられるという。
今回の研究成果により、胆道がんのゲノム・分子異常の解明が大きく前進し、胆道がんのゲノム医療の促進への貢献することが期待される、と研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース