先行研究では、STX1A遺伝子欠損マウスを作成・解析
杏林大学は6月9日、自閉症スペクトラム(ASD)患者の一部で、HPC-1/Syntaxin1A(STX1A)遺伝子が欠損していることを見出したと発表した。この研究は、同大共同研究施設RI部門の小藤剛史助教授らと、県立広島大学の林教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Neuroscience Letters」に掲載されている。
研究グループは先行研究で、STX1A遺伝子を欠損させたマウスを作成し、その表現型解析を行ってきた。同マウスは、さまざまな精神神経疾患に関わるモノアミンおよびオキシトシン等の神経ペプチドの分泌が低下し、ASD患者にみられる「学習機能の低下」「社会行動の障害」などの症状と類似している行動様式を示していた。また、これらのマウスの社会行動の障害は、自閉性障害を軽減させる効果があるオキシトシンを投与することにより改善されたという。研究グループはこれらの結果から、ヒトASDとSTX1A遺伝子が関連する可能性があると考え、ASD患者のSTX1A遺伝子について解析を行った。
STX1Aの発現量の変動がASDに関わる可能性
今回の研究では、血球細胞のSTX1AのmRNAの発現量を測定。その結果、多くのASD患者で、STX1Aの発現量が健常者と比べて低下していることが判明した。そこで、それらの患者のSTX1A遺伝子について、コピー数多型(CNV)解析を行ったところ、その一部でSTX1A遺伝子がハプロイド(遺伝子数が半減)となっていることがわかったという。
一般に、ASDにはシナプス機能の障害が関わると推測されており、そこには複数の遺伝子が関わっていると考えられる。ASDに関連する遺伝子はいくつか報告されているが、シナプス伝達を直接制御するSTX1Aは、その重要な原因遺伝子の1つであると考えられる。また、ハプロイドの患者以外でも、STX1Aの遺伝子発現が変動している患者例が多数認められた。これらは、神経細胞におけるSTX1Aの発現量の変動がASDに関わることを示している。その機序を解明することがASDの病態解明につながる可能性がある、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・杏林大学 医学部研究成果