睡眠と覚醒の不適切な切り替えが起る睡眠障害
金沢大学は4月11日、気持ちが高ぶった時に突然全身の力が抜けてその場に倒れこんでしまう「情動脱力発作」を防ぐ神経経路を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系の三枝理博教授、長谷川恵美前助教(現筑波大学)らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」オンライン版に4月10日付で掲載されている。
画像はリリースより
人間の脳には睡眠システムと覚醒システムが存在しており、適切なタイミングで両者が切り替わる。このスイッチの制御に重要なのがオレキシン神経だが、これが無くなると不適切なタイミングで睡眠と覚醒の切り替えが起こってしまう睡眠障害「ナルコレプシー」を発症する。ナルコレプシーの特徴的な症状としては、日中の非常に強い眠気と情動脱力発作がある。情動脱力発作は気持ちが高ぶった時に起き、重篤な場合には全身の力が抜けて倒れこんでしまうこともある。
睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠の2種類があり、レム睡眠中に見る夢の内容が実際に行動に移されないように、ほとんどの筋肉の力が抜けている。情動脱力発作は、覚醒中にレム睡眠の特徴である脱力が起きてしまったものと考えられ、研究グループは以前、オレキシン神経から放出されたオレキシンを受け取ってナルコレプシーを抑える、2つの神経を明らかにしていた。1つは青斑核という脳領域にあるノルアドレナリン神経で強い眠気を、もう1つは背側縫線核という脳領域にあるセロトニン神経で情動脱力発作を抑制するという。
セロトニン神経が扁桃体の活動を弱め、発作の発生防ぐ
今回、同研究グループは、背側縫線核のセロトニン神経が情動をつかさどる扁桃体の活動を弱めることで、情動脱力発作の発生を防ぐことを明らかにした。背側縫線核のセロトニン神経は、さまざまな脳領域に神経線維を伸ばして情報を送るが、モデルマウスの扁桃体に伸びているセロトニン神経線維だけを光遺伝学で刺激し、セロトニンの放出を人工的に高めると、情動脱力発作がほぼ完全に抑えられたという。
また、セロトニンの放出は、扁桃体の活動を弱めることも判明。扁桃体の活動を人為的に直接弱めると情動脱力発作が抑えられ、逆に活動を高めると発作の頻度が増え、オレキシン神経が情動脱力発作を抑制する効果は、セロトニンの放出を扁桃体だけで阻害すると消失したとしている。
今回の研究により、セロトニン神経は筋肉の脱力を直接抑えるのではなく、感情的興奮を伝える扁桃体の活動を弱めて適度に調節することで、情動脱力発作を防ぐことが明らかになった。研究グループは「オレキシン神経→背側縫線核・セロトニン神経→扁桃体」という神経経路が明らかになったことで、ナルコレプシー発症メカニズムの全貌の理解に大きく近づくとともに、情動脱力発作の新たな治療法の開発にもつながると期待している。
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