111家系の日本人家族性 ALS を集積、原因遺伝子を探索
東北大学は1月31日、家族発症歴のある日本人の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子を次世代シークエンサーによって幅広く解析し、ALS発症に関わる複数の遺伝子変異を明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科神経内科学分野の青木正志教授と遺伝医療学分野の青木洋子教授が共同で行ったもの。同研究成果は 「Neurobiology of Aging」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
ALS患者は国内に約1万人、世界で約35万人といわれ、その約10%は家族性ALSとされている。その原因遺伝子は、1993年にSOD1遺伝子が同定されて以降、これまでに25種類以上の遺伝子が報告されてきたが、その頻度や病態はいまだ不明だ。
これまでに同大学神経内科では、日本人家族性ALS111家系を集積し、直接塩基配列決定法(サンガーシークエンス)を用いて36家系にSOD1変異、12家系にFUS変異を同定してきた。しかし、残る約60%では原因遺伝子が不明だったという。
既知の6つの遺伝子変異と、新規の遺伝子変異を発見
今回の研究では、遺伝子変異が未同定であった45家系(患者51例)のゲノムDNAを対象に、次世代シークエンサーを用いてALSおよび運動ニューロン疾患関連35遺伝子のターゲットリシークエンス解析を行って原因遺伝子を探索。その結果、6例にこれまでALS関連遺伝子変異として報告のあるANG、OPTN、SETX、TARDBP変異を同定した。また、1例にこれまでに同定されていない新たなALS2変異を同定。一方、欧米人の家族性ALSで頻度の高いC9ORF72変異は同定されなかったという。
これらの研究成果により、同科で集積してきた日本人家族性ALS家系全体における既知の遺伝子変異の種類と頻度が明らかとなった。その頻度はSOD1変異(32%)、FUS変異(11%)、SETX変異(2%)、TARDBP変異(2%)、ANG変異(1%)、OPTN変異(1%)で、過去の報告とほぼ合致しており、日本人ALSの家族性発症要因としてはSOD1変異が最多、ついでFUS変異が多く、TARDBPおよびOPTN変異は少ないといえる。
また、欧米人(ヨーロッパ、米国)およびアジア人(韓国、台湾、中国)からの家族性ALSにおける遺伝子解析研究の結果と比較したところ、人種差が明らかとなった。欧米人でもっとも多いC9ORF72変異がアジア人では極めてまれである一方で、アジア人ではSOD1変異がもっとも多く、ついでFUS変異の頻度が高いことが明らかとなった。世界的にTARDBP変異の頻度は一律に低く、ANG変異は非常にまれだったという。家族性ALSにおける遺伝的背景には人種差があり、分子病態が多様であることが示唆される。
今後も新たな家族性ALS原因遺伝子の探索を続けることで、ALS発症メカニズムを解明する手がかりを見出し、iPS細胞やゲノム編集など最新の研究手法を駆使して、治療法開発につながる病態研究の発展が期待できるとしている。
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