欠失や転座に繋がり得るDNA修復反応のメカニズム解明を目指して研究
群馬大学は1月27日、放射線照射によって生じたDNA2本鎖切断が、G1期細胞において再連結するための詳細な分子機構を明らかにしたと発表した。この研究は、同大学先端科学研究指導者育成ユニットの柴田淳史助教、ドイツ・ダルムシュタット工科大学のMarkus Lobrich教授、英国・サセックス大学のPenny Jeggo教授の国際研究グループによるもの。研究成果は、国際雑誌「Molecular Cell」オンライン版に1月26日付けで公開されている。
画像はリリースより
放射線照射によって生じるDNAの傷の中でも、DNA2本鎖の切断は細胞の運命を左右する重篤な損傷だ。一方で細胞には、切断されたDNAを治す「DNA修復」の機能があり、切れたDNA鎖を繋ぎ合わせることができる。しかし、一度切断されたDNA鎖は繋がれた場合でも、一定の確率で連結部分に突然変異を残してしまうことがあり、DNA2本鎖切断修復時のエラーとして生じる欠失や染色体転座などの突然変異は、がんを引き起こす原因になりうると考えられている。
これまでの研究では、細胞がどのような経路を介してDNAを再連結した時に欠失や転座が生じるかは明らかになっていなかった。今回の研究では、欠失や転座に繋がり得るDNA修復反応についての分子メカニズムの解明を目指したという。
新たながん予防方法の提案にも繋がる可能性
放射線照射によって生じた DNA2本鎖切断(DSB)は、非相同末端連結(NHEJ)または相同組換え(HR)によって修復される。このふたつの修復経路は細胞周期の影響を受け、G1期細胞ではほぼすべてのDSBがNHEJ経路によって修復され、S/G2期細胞ではNHEJとHRの両方の修復経路が使われる。これまでの研究から、G1期細胞におけるNHEJ修復では、DNA切断端をそのまま連結する経路と、DNAヌクレアーゼによる削り込みを行った後に連結するふたつの経路があることがわかっていた。また、DNA切断端を削る経路ではArtemisと呼ばれるDNAエンドヌクレアーゼが必要であることが知られていた。
今回研究グループは、Artemisによる削り込みが行われる前に、MRE11、EXO1、EXD2を有するエキソヌクレアーゼがDNA末端を削り込むことを明らかにしたという。また、削り込みの過程でCtIPおよびBRCA1が必要であることを発見。さらに、G2期で行われるHR修復では、NHEJで働くKu/DNA-PKがDNAの削り込みに伴いDSB末端から除去されるのに対し、G1期の削り込みではKu/DNA-PKが保持され連結を促進することを示唆する結果が得られたという。
今回の研究結果から、長年明らかにされていなかったDNA末端部分の削り込みに関わる酵素群とその詳細な制御機構が明らかになった。発がん過程のひとつであるDNA変異発生メカニズムが明らかになることで、今後、新しいがん予防方法の提案にも繋がる可能性があると、同研究グループは述べている。
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