従来型就労支援と比べ就労率は43%も高い結果に
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は10月12日、統合失調症や双極性障害など、重い精神障害を持つ人に対する効果的な就労支援プログラムである認知機能リハビリテーション及び個別型援助付き雇用をセットにしたサービスプログラムの実施が、現在広く実施されている従来型就労支援プログラムと比較して費用対効果の優位性があることを国際的に初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同精神保健研究所・社会復帰研究部の山口創生援助技術研究室長、佐藤さやか精神保健相談室長、伊藤順一郎前部長らの研究グループによるもの。研究成果は「Psychological Medicine」オンライン版に9月22日付けで掲載されている。
画像はリリースより
近年、認知機能リハビリテーションと個別型援助付き雇用をセットしたサービスは、重い精神障害を持つ人に対してよりよい就労アウトカムをもたらすとして国際的に注目されている。認知機能リハビリテーションは24回のコンピュータトレーニングと12回のグループワークからなり、精神障害者の認知機能やメタ認知、動機づけに対する働きかけを通して社会的機能の改善を図るプログラム。一方、個別型援助付き雇用は、利用者のニーズや好みを基にした個別サービスやアウトリーチサービスを軸に、早期の就職活動や就労後の継続を支援するサービスプログラムである。これまで両者をセットにしたサービスの費用対効果は検証されていなかった。
研究では、医療機関からの仲介型ケアマネジメントと就労準備性の向上に重点をおいたトレーニング型の従来型就労支援を比較対照として、認知機能リハビリテーションと個別型援助付き雇用をセットにしたサービスの効果とその費用対効果を検証するために無作為化臨床試験を実施。その結果、就労率では、認知機能リハビリテーションと個別型援助付き雇用をセットにしたサービスのほうが43%も高く、さらに支援にかかる一人あたりの平均コストも、認知機能リハビリテーションと個別型援助付き雇用をセットにしたサービスのほうが14万7,533円ほど安い結果になったという。
制度見直しや就労支援の発展に貢献も
日本における重い精神障害を持つ人に対する就労支援は、入院患者の場合、精神科デイケア、生活支援事業所、就労支援事業所などのステップを経て就職活動をするという長期のプログラムが一般的。この過程でモチベーションを失ったり、調子を崩したりする場合も少なくない。認知機能リハビリテーションや個別ニーズに基づいた援助付き雇用をより広く展開することで、こうした課題を解決し、早期に就労の機会を得られる可能性が出てきた。
2006年の障害者雇用促進法の改正に伴い、ハローワークにおける精神障害を持った人の就労者数は2006年度の7,000人から増加。2015年度には4万人に迫る勢いだが、重い精神障害を持った人は必ずしも多くないため、就労は未だ厳しい。今回の研究成果は、現行の制度を見直すきっかけとなり、重い精神障害を持つ人への就労支援の発展に貢献できると、研究グループは述べている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース