全国20の精神科医療施設参加
大阪大学は5月30日、全国の20の精神科医療施設が参加する「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDE研究)」を開始したと発表した。精神科領域においてガイドラインの効果を検証した研究は未だなく、全く新しい試みとなる。
画像はリリースより
この研究は、同大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授、杏林大学医学部の渡邊衡一郎教授、東京女子医科大学医学部の稲田健講師らのグループによるもの。今年5月に研究代表施設である大阪大学の倫理審査委員会で承認され、これから全国の分担施設へと研究を展開する。
精神科医療では、薬物療法と心理社会学的療法が両輪となっているが、その実践については臨床家ごとのばらつきが大きく、よりよい医療を普及させることが必要とされている。例えば、代表的な精神疾患のひとつである統合失調症では、抗精神病薬の単剤治療を行うことが海外の各種ガイドラインで推奨されているが、日本では諸外国と比較して突出して抗精神病薬の多剤投与が多く、薬剤数が多いことが知られている。
2011年の日本精神神経学会では、統合失調症における多剤療法の問題が取り上げたシンポジウムが行われ、抗精神病薬の多剤併用率が65%程度であり、抗パーキンソン薬、抗不安薬/睡眠薬、気分安定薬の併用率もそれぞれが30~80%と高いことが報告された。2014年度診療報酬改定では、向精神薬の多剤処方に対する診療報酬の減額がなされている。
若手の精神科医への適切な治療教育に期待
昨年9月には、日本神経精神薬理学会が統合失調症の薬物治療ガイドラインを発表。これは、日本初のMinds法に則ったエビデンスに基づいたものであり、統合失調症においては抗精神病薬の単剤治療を行うことを明確に推奨している。うつ病学会でも大うつ病性障害・双極性障害の治療ガイドラインを発表している。これらの治療ガイドラインが十分に普及したとはいえない現状があり、よりよい精神科医療を広めるための工夫が必要であると考えられている。
今回のEGUIDE研究では、統合失調症の薬物治療ガイドラインについては事務局の東京女子医科大学を中心に、うつ病ガイドラインについては事務局の杏林大学を中心に、それぞれのガイドラインに基づいた講習内容を検討し、資料を作成していく。講習は全国9か所で行う予定。
この研究で講習を行うことにより、ガイドラインの普及が進み、若手の精神科医に対してより適切な治療の教育が行われ、その結果として、より適切な治療が広く行われるようになることが期待されると、研究グループは述べている。また、教育効果を検証することにより、さらに効果的な講習の方法論が開発され、精神科医および精神科医療にかかわるパラメディカルスタッフへの生涯教育法の開発や、当事者やその家族への教育にもつながる可能性もある。
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