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全国民約560万人がコホートの対象、デンマークが世界に先駆け構築した「世界最大級の医療ビッグデータ」

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2016年01月08日 PM05:00

本邦において、超高齢化にともなう医療費増大に対応するための、データに基づいた効率的な医療の確立は喫緊の課題ともいえる。がしかし、現況はマイナンバー制度が緒に就いたばかりで、医療等IDの仕様検討も道半ばであり、その後の運用、利用イメージのコンセンサスもまだまだという状況だ。先行する他の海外先進諸国の事情、特に最先端を走るといわれるデンマークの現在について報告する。

日本におけるマイナンバー=CPR番号に紐づけられる「疾患データベース」「バイオバンク」

デンマークでは、マイナンバーとほぼ同じCPR番号という個人番号制度が、日本よりも遥か前、1968年から稼働している。現在では社会保障など行政と関連する事務手続きだけでなく、希望すれば銀行口座で使用している電子署名を付加し、個人番号カードを銀行のキャッシュカードとしても使えるようにするなど利便性を高めている。デンマークでは、このCPR番号に可能な限りの情報を紐づけ可能にしており、医療関連情報もその対象だ。


日本におけるマイポータルに相当する、個人専用ポータル「borger.dk」

紐づけられる医療関連情報は大きく分けて「疾患データベース」および「バイオバンク」の2つ。実は法律により、すべての国民の疾患情報はCPR番号に紐づけた形でデータベースに登録するよう医師に義務づけられている。従って、全国民の疾患履歴がほぼすべてデータベース化されているといえよう。これだけでも日本の状況からすれば驚くべき話だが、さらに驚嘆するのは「バイオバンク」だ。こちらも法律で1981年以降に生まれた国民全員について、病院での検査等で採取された試料をバイオバンクに保管することが定められており、現在までに保管された試料の数はなんと2500万以上といわれている。

この2つの資源には、国内の医療関係者は、倫理委員会の許可や利用契約締結など定められた手続きをとれば、手続き完了と同時にオンラインでさまざまな検索や問い合わせをすることができる。例えば知りたい疾患の患者が国内のどこにどの程度存在するのか、担当医師は誰なのか、遺伝的疾患であればその患者の家系についてはどうなのかなど、国内のすべての患者の情報を網羅的に、場合によっては世代をたどって得ることができるのだ。さらにバイオバンクのデータベースからの検索では、mRNAなど、特定のDNAをキーにした検索も可能となっている(ゲノム情報を閲覧するには、別の手続きが必要)。

つまりデンマークでは、すべての国民約560万人のデータが、すぐに臨床研究が可能なかたちで整えられているという、世界にも類を見ない体制が構築されているのである。

100万人あたりの臨床試験数世界トップ 「国民全員の医療ビッグデータ」が世界に与えるインパクト

デンマークはこの資源を知財と捉え最大限に活かそうと、政府みずから国際的な臨床研究ビジネスに乗り出し、多くの投資を海外から得ている。国際的製薬企業のみならず、介護ロボット開発に取り組むメーカーのほか、ビッグデータ解析研究の一環として株式会社日立製作所の「ビッグデータラボ」の招聘に成功するなど、今やアジアを含めた国際的な臨床研究をリードする立場に立とうとしているのだ。統計データにもそれは現れており、2013年の調査では、100万人あたりの臨床試験数で40.4回となり、人口において遥かに多い欧米諸国を上回り、世界1位に躍り出た※1


「www.clinicaltrialsdenmark.com」
臨床研究についての問い合わせ、申込はこの統一窓口からアクセスする。問い合わせから4日以内に必ず最初の回答を行なうという

また、試験の数だけでなく特許出願数においても国際的なプレゼンスを高めている。例えばOECD(経済協力開発機構)の調査によると、2007年から2011年までUSPTO(米国特許商標庁)に出願されたデンマークの総特許数のうち、国外の共同発明者がいる件数の割合は一貫して30%前後で推移しており、これは他の先進国の平均を遥かに上回る数値である※2。また同じくUSTPOに出願されている医療分野、バイオテクノロジー分野の特許数を人口100万人あたりで按分してみると、両分野において日本を大きく上回り、バイオ分野では米国をも遥かに凌駕している※3

さらに近年、この資源を活かした新たな分子バイオマーカーの研究プラットフォームも起ち上げている。国内外の企業200社と医療機関が参加し、デンマークにおける臨床研究のさらなる精緻化・質の向上を図ることで、他国に対してさらにリードを広げようとしているのである。


「The Danish Biomarker Network」
国際的にも開かれた研究会だが、こうした研究会を設置することが研究フィールドの信頼性を高めることにも繋がる

こうした取組みは、欧州だけでなくアジアでも広く知られている。デンマークはEUに加盟していることから、この地で臨床研究を行えば、EU全体での認証も同時に取得できる。大きな市場に素早く参入できる効率的な「臨床試験場」として、アジアでも近年急速に認識されつつあるのだ。医療における国際競争力を高めている好事例としてメディアで最近取り上げられつつあるデンマークだが、これから制度を構築する日本にとっては同時に、この分野の競争力を保てるか否かの警鐘でもあるだろう。

※1 A WORLD LEADER IN CLINICAL TRIALS(MEASURED PER CAPITA)
※2 OECD統計データ公開サイト「OECD.stat」にて公開されている、特許に関する統計情報「Patents with foreign co-inventors」より。
※3 OECD.statにて公開されている、特許に関する統計情報「Patents by technology」の数値を、以下のみなし人口数(100万人単位)で除算。5.6 日本127.7 アメリカ306.4(2007-2011の各国統計当局の平均)

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