ESMOAsia2015でLUX-Lung7の結果報告
近年、分子標的治療薬による治療成績の進展が著しい進行性の非小細胞肺がん。そのなかでもEGFR変異陽性の進行性非小細胞肺がんで分子標的治療薬のジオトリフ(一般名:アファチニブマレイン酸塩)が従来、この領域で頻用されているイレッサ(一般名:ゲフィチニブ)よりも有意に無増悪生存期間(PFS)を延長する可能性があることが明らかになった。先ごろシンガポールで開催されたESMO(欧州臨床腫瘍学会)Asia 2015 Congressで韓国・ソウルの成均館大学校サムソンメディカルセンター血液学・腫瘍学部長のKeunchil Park氏がアファチニブとゲフィチニブの効果を直接比較した世界規模の無作為非盲検第2b試験「LUX-Lung7(LL7)」の結果を報告したことから分かった。
画像はwikiメディアより
分子標的治療薬の登場以前、切除不能となった進行性の非小細胞肺がんの薬物治療では、プラチナ製剤を含む化学療法が一般的で、無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)の延長は限定的だった。しかし、がん細胞表面に存在する上皮成長因子受容体(EGFR)の遺伝子の一部に変異があるケースでは、細胞の増殖・分化に関係する信号伝達に重要な役割を果たす酵素・チロシンキナーゼを異常に活性化させ、がんをより一層増殖させることが判明。また、ゲフィチニブやタルセバ(一般名:エルロチニブ塩酸塩)などのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)に分類される分子標的治療薬の感受性の高さとEGFR変異陽性との相関が2004年以降明らかになり、患者選択により治療成績も次第に向上してきた。こうしたなかで登場したのがチロシンキナーゼに対する結合が不可逆性を有する第二世代EGFR-TKIのアファチニブである。
切除不能の進行性非小細胞肺がんでは事実上の第一選択薬の可能性が
LL7ではステージIIIb/IVの未治療EGFR変異陽性の非小細胞肺がん319例を対象にアファチニブ群160例(1日40mg)とゲフィチニブ群159例(1日250mg)の2群に分け、主要評価項目をPFS、OS、治療成功期間(TTF)として比較検討を行っている。LL7のアファチニブ群とゲフィチニブ群の患者背景は、女性割合がややアファチニブ群で低いものの(56.9%vs66.7%)、アジア人比率(58.8%vs55.3%)、EGFR 変異陽性のなかでもアファチニブが効きやすいエクソン19欠損率(57.5%vs58.5%)では差がなかった。
今回発表された結果では、治療開始18か月時点でのPFS比率はアファチニブ群が27%、ゲフェチニブ群が15%、24か月時点でのPFS比率はアファチニブ群が18%、ゲフェチニブ群が8%。TTFはゲフィチニブ群が13.7か月、ゲフィチニブ群が11.5か月。アファチニブはゲフェチニブに対してPFSでハザード比0.73(95%信頼区間:0.57-0.95、p=0.0165)、TTFでハザード比0.73(95%信頼区間:0.58-0.92、 p=0.0073)となり、ゲフェチニブと比較して有意にPFS、TTFを改善した。なお、OSについては追跡期間中央値27.3か月時点でまだ確定には至っていない。また、客観的奏効率はアファチニブ群70%、ゲフェチニブ群56%(p=0.0083)であり、奏効期間中央値はそれぞれ10.1か月(95%信頼区間、7.82-11.10)と8.4か月(95%信頼区間、7.36-10.94)だった。
安全性に関しては、grade≧3の有害事象としてアファチニブ群で多かったものは下痢が12.5%、発疹が9.4%、ゲフェチニブ群で多かったものはアラニントランスアミナーゼ値上昇が8.2%。Park氏は「全体として重度の有害事象の頻度は、わずかに毒性プロフィールが異なるもののどちらの療法もほぼ同じだった」とコメント。有害事象による治療継続中止率は両群ともに6.3%と低値だった。
日本肺癌学会による「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2014年版」では、IV期非小細胞肺がんの非扁平上皮癌でEGFR遺伝子変異陽性の場合、対象患者が75歳未満でパフォーマンス・ステイタス(PS)が0-1ならば、一次治療としてゲフェチニブ、エルロチニブ、アファチニブのEGFR-TKI3剤いずれかの単剤治療をグレードAで推奨している。ただ、アファチニブに関しては、既にエルロチニブとの直接比較試験「LUX-Lung8」でアファチニブの方がより良好な結果が得られており、今回のLL7の結果と併せて、切除不能の進行性非小細胞肺がんでは事実上の第一選択薬としての可能性が浮上してくる。
患者ベネフィットの最大化を目的に第一選択薬の指針利用を期待とBI本社がコメント
今回の結果についてESMOスポークスマンで、LL7には参加していないドイツのHospital Grosshansdorf胸部腫瘍学部腫瘍科医長のMartin Reck氏は、「これらの試験結果を受けて、アファチニブが最も魅力的なEGFR-TKIのひとつとなる。しかし、ゲフェチニブとアファチニブの耐容性は異なり、治療法の選択肢は依然として個々の臨床判断に基づくだろう」との見解を表明した。
一方、今回の結果についてアファチニブの製造販売元であるベーリンガー・インゲルハイム本社は「LL7の結果が、患者ベネフィットの究極の最大化を目的に、EGFR変異陽性肺がんの第一選択治療の指針として利用されることを期待する」との見解を表明。また、日本国内では、アファチニブについて有害事象の発現頻度などから臨床医サイドが若年・PS0-1の症例を中心に処方していると言われている点については「LL7は登録基準がPS 0-1であり、PS2以上の患者への適応については言及できない。ただ、年齢に関してはLL7で上限を設けておらず、今回の結果は成人患者では年齢層にかかわらず適応できると考えている」とコメントしている。
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