オキシトシン投与で内側前頭前野の活動が活性化
東京大学は9月7日、同大医学部附属病院精神神経科の山末英典准教授ら研究グループが、オキシトシン経鼻剤の6週間連続投与によって自閉スペクトラム症の中核症状が改善することを世界で初めて実証したと発表した。なお、同研究成果は専門誌「BRAIN」に9月3日付で掲載されている。
画像はリリースより
自閉症スペクトラム症は、対人場面での相互作用とコミュニケーションの障害や、同じ行動パターンを繰り返して行うことを好む、変化への対応が難しいという常同性・反復性を幼少期から一貫して認めることで診断され、100人に1人程度と発症頻度の高い障害である。これらの中核症状に対しての有効な治療法は乏しく、一部では抗うつ薬が常同性・反復性に対して用いられているが、対人場面での相互作用とコミュニケーションの障害については薬物療法がなく、平均以上の知能を有する患者でも社会生活の破綻をきたす最大の原因となっている。
同研究グループは2013年に、オキシトシンを1回経鼻投与することで、自閉スペクトラム症において元来低下していた内側前頭前野と呼ばれる脳の部位の活動が活性化され、それと共に他者の友好性への理解が改善されることを報告していた。しかし、その後海外で行われたランダム化臨床試験では、連日投与の有意な効果を見出せないという報告が続いていた。
実用化を目指し、10月から大規模臨床試験を実施予定
今回、研究グループは、自閉症スペクトラム症と診断された20名の成人男性にランダム化二重盲検試験を実施。オキシトシン経鼻剤を毎日2回ずつ、連続して6週間使用し、使用前使用後の中核症状の評価や脳機能の画像評価、採血などを行った。その結果、オキシトシン投与前後ではプラセボ投与前後に比べて、対人場面での相互作用の障害という中核症状の改善が有意に認められたという。さらに、この症状の改善は、内側前頭前野での安静時機能的結合の改善と相関していたとしている。
この研究結果により、オキシトシン経鼻剤の連続投与によって自閉スペクトラム症の中核症状に改善効果が得られること、連続投与でも有害な事象は増加しないことが示された。同研究グループは、自閉症スペクトラム症の新たな治療法としての将来的な実用化を目指し、今後は大人数での臨床試験(JOIN-Trail)を10月末から名古屋大、金沢大、福井大と合同で行い、今年度中に試験を終了する予定としている。
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