世界初となる哺乳動物の中枢神経組織の軸索輸送の動画撮影
福井大学は8月4日、同大医学部眼科学領域の瀧原祐史助教らの研究グループが、マウスを用いたライブイメージで、視神経軸索内のミトコンドリアの輸送を観察することに成功したと発表した。これは、解剖せずに自然な状態で、哺乳動物の中枢神経組織の軸索輸送を動画で撮影できた世界で初めての研究成果だ。
緑内障によって視神経が死ぬメカニズムは、眼圧が視神経の軸索内の輸送を止めてしまうためと考えられているが、実際に軸索流が止まるのかを動画でみた報告はなかった。軸索流が止まることを観察できれば、緑内障で視神経が死ぬ前に治療を開始することができる。
研究グループは、眼は唯一骨で囲まれていない中枢神経であるため、解剖を加えずに自然な状態で軸索流が観察できると予測。ミトコンドリアを蛍光標識したマウスを用いて、軸索内を輸送されるミトコンドリアを2光子レーザー顕微鏡で観察し、視神経軸索1本1本の中を活発に輸送されるミトコンドリアの動画の撮影に成功した。
その結果、眼圧の高いマウスでは、ミトコンドリアの輸送が止まった後に視神経が死ぬことが判明。さらに、軸索の中でミトコンドリアが無くなっている領域が広がっていくことや、ミトコンドリア自体の長さが短くなっていることも明らかとなった。
緑内障の進行を予測する検査法などへの実用化となるか
さらに、ヒトでは70才台にあたる高齢のマウスを用いた研究により、軸索の中でミトコンドリアが無くなっている領域が広がっていくことや、ミトコンドリアの長さが短くなっていることが判明。また、中高年のマウス(40才台)でも同じ現象が始まっていることが明らかになった。これは、加齢と共に緑内障にかかりやすいことや、高齢者の緑内障ほど眼圧で視神経が死にやすいという臨床研究のデータと一致する結果だ。一方で、緑内障ではミトコンドリアの軸索流が止まるが、加齢では止まらないことも明らかとなり、老化現象と緑内障との違いも明確となったという。
緑内障は目薬や手術で眼圧を下げる治療が行われているが、視神経の眼圧に対する弱さは個人差が大きく、どこまで眼圧を下げればいいのか判断する方法は現在ない。今回の研究が実用化されれば、軸索流をみることで、視神経が弱ってきているのかを判定することができ、今の眼圧が視神経にとって適切なのか高いのかを見極め、治療を変更することが可能となる。
また、研究グループは今後、さらに大型の動物で検証を重ねて、臨床応用を進め、視神経のミトコンドリアを見ることにより、脳年齢を判定する健診技術にも役立てたいとしている。
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・福井大学 プレスリリース