「痛み」そのものが神経の病気の再発のきっかけに
北海道大学は7月24日、同大遺伝子病制御研究所の村上正晃教授らの研究グループが、痛みが神経の病気を悪化させることを実証したと発表した。この研究成果は、生命科学の専門オンライン誌「eLIFE」に、7月20日付けで公開されている。
画像はリリースより
痛みは多くの病気に共通する症状であり、慢性的な痛みは生活の質を大きく損なう。しかし、これまで痛みは単に病気の副産物と考えられていて、痛みが直接、病気を悪化することは知られていなかった。
以前、同研究グループは、地球の重力がふくらはぎに存在する抗重力筋であるヒラメ筋を刺激することによって生じる神経ネットワークが、交感神経の活性化を誘導し、血管の状態を変化させ、多発性硬化症の動物モデル(EAE)の病気を発症させる起点となるという現象「ゲートウェイ反射」を報告した。
これは、感覚神経-交感神経の活性化を介して神経ネットワークが生じ、標的臓器の炎症状態を変化させることを証明するものだった。今回は、多くの病気に付随する「痛み」で始まる神経ネットワークを介して、病気の症状にどのような影響が生じるのかを調べたという。
多くの中枢神経系の病気の再発を防ぐ新たな手段となる可能性
今回、研究グループは、「痛み」を介する神経ネットワークが、病気の症状にどのような影響を与えるのかをEAEマウスを使って検証。その結果、実験的に痛みを与えるとEAEの症状が悪化し、逆に鎮痛剤を与えるとその症状が改善したという。このことは、痛みが直接的に病気の進行に関与していることを示している。
次に、一過性に病気を発症するマウスを利用して、症状が落ち着いたとき(寛解期)に痛みを誘導した。すると、EAE の症状が再発したが、他のストレスではEAEは再発しなかったという。また、今回の痛みによる再発は、以前報告した「ゲートウェイ反射」と同じ経路により起こることも判明した。
ヒトの多発性硬化症は、再発と寛解を繰り返し、痛みを伴うことが知られているが、今回の発見は、痛み自体が多発性硬化症の再発のきっかけとなることを示唆している。今後、鎮痛剤等を用いた痛みの抑制や、神経シグナルの抑制物質が病気の再発を防ぐ新たな手段になることが考えられる。また研究グループでは、多発性硬化症以外の病気と神経ネットワークの関係についても今後研究を進めて行きたいとしている。
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・北海道大学 プレスリリース