これまで不明だった過量服薬発生前の処方状況
医療経済研究機構は5月21日、同機構の奥村泰之主任研究員らが、過量服薬の発生前における向精神薬処方に関する研究成果を「Psychopharmacology」に発表し、その概要を同機構ホームページ上で公表したと発表した。
画像はリリースより
過量服薬(医薬品過剰摂取)による急性中毒は、入院日数が短いなど良好な経過をたどる一方で、救急医療体制への負担が大きく、三次救急医療機関への搬送割合が高いことが明らかになっている。こうした患者の多くは、自殺念慮などのために意図的に向精神薬などの薬剤を摂取すると言われている。
厚生労働省は、過量服薬の問題への対策を推進すべく、平成22年に「過量服薬への取組—薬物治療のみに頼らない診療体制の構築に向けて」という指針を公表。その中で取り組みの1つとして、「向精神薬の処方実態」などを調査していく方針が定められているが、これまで、過量服薬の発生前(過量服薬による急性中毒で受診する前)に、どのように向精神薬が処方されているかについては、ほとんど調査が行われていなかった。
過量服薬の可能性として高用量処方などが関連
今回研究グループは、株式会社日本医療データセンターが構築している、健康保険組合加入者172万人のレセプトデータベースを用いて、症例対照研究の手法により分析を実施。平成24年10月から平成25年11月までに受診した過量服薬患者351名を症例群、また、過量服薬患者群と性別・年齢が近似するうつ病患者1,755名を過量服薬のハイリスク対照群とし、両群について、6か月(180日)前における向精神薬の処方状況を比較した。
その結果、過量服薬患者351人のうち、62%に抗不安・睡眠薬、44%に抗うつ薬、31%に抗精神病薬、20%に気分安定薬が、過量服薬の発生前180日以内に処方されていた。また、直近の処方時期については、93~96%が90日以内であった。患者が以前に処方された薬剤を服薬せずにストックし、過剰摂取している場合は、医師や薬剤師が過量服薬の発生予防に寄与することは困難だが、大部分の患者は、少なくとも過量服薬の発生90日前までは治療継続しているため、服薬状況の確認など医師や薬剤師による関与の機会はあると考えられる。
抗不安・睡眠薬についての90日以内の処方状況は、過量服薬患者群(351人)では、23%に高用量処方、5%にバルビツール酸系睡眠薬処方、3%に重複処方が認められた一方、うつ病患者群(1,755人)では、7%に高用量処方、1%にバルビツール酸系睡眠薬処方、1%に重複処方が認められた。
研究法の限界から因果関係は明らかではないが、過量服薬をする可能性には、高用量処方、バルビツール酸系睡眠薬処方、重複処方が関連していることが確認された。また、それらの処方のある患者の大部分は、精神科医師による診療を受けていることが判明。精神科医師は、薬物療法によるベネフィットと過量服薬のリスクを勘案し、注意深い処方の見直しが求められると研究グループは報告している。
▼外部リンク
・医療経済研究機構 プレスリリース