不明だった異常ニューロン新生感知と制御の仕組み
九州大学は3月9日、海馬に存在する免疫担当細胞であるミクログリアがてんかん発作後に起こる異常ニューロン(神経細胞)新生を抑制することで、てんかん症状を緩和することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の中島欽一教授と、大学院医学系学府博士課程4年の松田泰斗氏らの研究グループによるもの。大阪大学の審良静男教授、奈良先端科学技術大学院大学の河合太郎准教授らとの共同研究となる。研究成果は、国際学術雑誌「Nature Communications」に、同日付けで掲載されている。
画像はプレスリリースより
これまでの研究から、側頭葉てんかんの患者およびその動物モデルの海馬では、神経幹細胞から新生されたニューロンは形態的に異常なだけでなく、通常とは異なった不適切な場所へ配置されることが報告されていた。また、この異常ニューロンが異所性の興奮性神経回路を形成することで、てんかん原生および病態の慢性化、海馬依存的な学習・記憶の障害につながることがわかってきていた。しかし、脳がどのようにてんかん発作後の異常ニューロン新生を感知し、それを制御しようとする仕組みを備えているのかどうかは不明だった。
炎症性サイトカインの産生を促し、異常ニューロン新生を抑制
研究グループは、本来、病原体由来DNAを認識するはずのToll様受容体(TLR)9遺伝子を欠損したマウスでは、野生型マウスと比較して、てんかん発作依存的な異常ニューロン新生がより増大していることを発見。そこで、TLR9遺伝子欠損マウスを用いて調べると、TLR9は、てんかん発作後に変性を起こしたニューロンから放出される自己DNAを認識して活性化されることが判明した。さらに、活性化されたTLR9はミクログリアからの炎症性サイトカインの一種(TNF-α)の産生を促すことで、てんかん発作依存的な異常ニューロン新生を積極的に抑制しようとしていることを突き止めたという。
さらに、TLR9遺伝子欠損マウスに薬剤を投与し、てんかん再発作を誘発したところ、野生型マウスと比較して、発作の程度および海馬依存的な学習・記憶障害が重篤化していることもわかったとしている。
この研究成果は、通常悪者と考えられている体内の炎症反応が、脳の正常機能維持に重要であることを示しており、てんかん発作発症やそれによって生じる脳機能障害の新たな改善法開発につながることが期待される。
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・九州大学 プレスリリース