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炎症性腸疾患の新たな病態機序を解明、プラスミンを標的とする新治療に期待-順大

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2015年03月04日 PM06:15

血液線維素溶解系を起点とする新たな病態機序

順天堂大学は3月2日、同大大学院医学研究科・ゲノム・再生医療センターの服部浩一先任准教授、同大下部消化管外科の宗像慎也氏ら研究グループが、疾患モデルマウスにおいて、炎症性腸疾患に対する血液線維素溶解系(線溶系)因子プラスミンを標的とした新たな治療に成功したと発表した。


画像はニュースリリースより

炎症性腸疾患の病態を左右する炎症性サイトカインの多くは、細胞表面に膜型の形で産生され、マトリックスメタロプロティナーゼ(MMP) という蛋白分解酵素により、その一部が切断され、可溶型となって分泌される。また、MMPは生体内の炎症性細胞、あるいはがん細胞の動員を促進することで知られており、がん治療薬としてMMP阻害剤の開発が進められていた。しかし、MMP阻害剤は欧米での治験で判明した深刻な副作用の問題もあって、 臨床普及の目処は立っていない。

近年の研究では、MMPの活性が、線溶系因子プラスミンによって制御されていることが判明している。今回の研究は、プラスミンの活性を阻害する低分子化合物によって、MMPの活性を阻害し、そして炎症性サイトカインの分泌と、これらの供給源となる炎症性細胞の病変組織中への動員・浸潤とを抑制し、包括的に炎症を制御するという、従来になかった新しい治療法への画期的なアプローチであるという。

線溶系因子プラスミンを標的とした新しい分子療法の可能性

研究グループは、炎症性腸疾患におけるMMPとプラスミンの役割・機能を解明するため、まず炎症性腸疾患の疾患モデルをMMP-9そしてプラスミンの前駆酵素であるプラスミノーゲン遺伝子欠損マウスと、これらの野性型について作製。その結果、これらの遺伝子欠損マウスでは、野生型と比較して重症度、組織傷害が有意に軽減し、生存率が向上することが判明した。また野生型群では、重症度に応じて、血中、そして組織中のMMP-9そしてプラスミンのレベルが有意に上昇すること、それに伴って炎症性サイトカインであるTNF-の血中濃度も増加することがわかったという。

そこで研究グループは、プラスミンの活性阻害により、MMPの活性を抑制する低分子化合物YO-2に注目。プラスミン阻害剤として神戸学院大学と共同開発中のYO-2を炎症性腸疾患・腸炎モデルに投与したところ、投与群では、生体中のMMP-9活性、TNF-濃度、重症度とも減少し、生存率が有意に改善されたという。また、投与群では、炎症性細胞の病変組織中への浸潤が抑制されており、化合物の抗炎症活性が示唆されたとしている。

この研究で使用した低分子化合物は、炎症製サイトカインの関与する他の炎症性疾患への応用も可能。また安価でもあることから、炎症性疾患に対する抗サイトカイン療法の代替療法の新規薬剤としての開発が期待できると研究グループは述べている。

▼外部リンク
順天堂大学 プレスリリース

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