高い抗HIV活性を持つ新たな修飾ヌクレオシド型抗HIV薬
横浜薬科大学は2月12日、同大学の大類洋教授が、東北大学大学院農学研究科の桑原重文教授との共同研究で、新たなヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症治療薬として期待される修飾ヌクレオシドEFdA(4’-Ethynyl-2-fluoro-2’-deoxy-adenosine)の簡易合成法の開発に成功したと発表した。この論文は学会誌「Organic Letters」に掲載されている。
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HIV感染症(エイズ)治療では、患者が抗HIV薬を用いた治療を長期にわたり受けることで、薬剤耐性を獲得したHIV変異株(耐性HIV)の発現により治療効果が弱まることと、薬の副作用が大きな課題となっている。
これらの課題を解決するため、耐性HIVを発現させず、また、すでに存在する耐性HIVに対しても高い活性を持ち、さらに副作用の少ない、新たな修飾ヌクレオシド型抗HIV薬として、大類教授が2004年に初めて分子設計・合成に成功したのがEFdAだ。
臨床治療薬としての活用・普及促進へ道筋
大類教授はこれまで、ヤマサ醤油株式会社、熊本大学大学院血液内科の満屋裕明教授グループと、EFdAの特長について共同研究を実施。その結果、HIV感染症治療に関し、耐性HIVを発現させないこと、臨床薬で最も効果が高い抗HIV薬「アジドチミジン(AZT)」の400倍以上、他の臨床薬の数万倍という高い抗HIV活性を持つこと、高度の耐性を獲得したHIV変異株に対しても非常に高い活性を持つこと、またマウスだけでなくサルに投与しても、副作用なくHIVの増殖を協力に阻止し、CD4陽性T細胞(ヒト免疫系に必要な白血球)を感染から効果的に守ること、が明らかになっていた。
しかし、EFdAの合成は容易ではないため、将来、EFdAが臨床薬として世界で広く使用されるためには、より簡易な合成法の開発が必要不可欠とされていた。
そこで今回、大類教授がEFdAの簡易合成法を開発。まず、従来の高価なヌクレオシド(DNAの構成成分)などから、安価なグルコース(ブドウ糖)に原料を変更。グルコースを4位に置換基をもつリボフラノースに変換するという新反応を開発したことによって、合成プロセスの簡略化に成功したという。従来の合成法と比較すると、ワンポット(1個の反応容器)で行える合成回数が増えたため、工程を大幅に簡略できた上、原料からのEFdAの収率は従来3.3%~18%だったのに対して37%へと、飛躍的に改良されたという。
なお、EFdAについては現在、米国Merck社がヤマサ醤油からライセンスを取得し、臨床試験を行っている。
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・横浜薬科大学 プレスリリース