AUTS2の異常によって引き起こされる精神疾患の病理に迫る
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は12月19日、神経研究所 病態生化学研究部の堀啓室長、星野幹雄部長らの研究グループが、自閉症スペクトラム障害や統合失調症など、様々な精神疾患に広く関わるAUTS2 (Autism Susceptibility Candidate 2)遺伝子の働きを、世界で初めて明らかにしたと発表した。なお、この研究成果は、米生命科学雑誌「Cell Reports」に12月19日付で掲載されている。
画像はプレスリリースより
今回、研究対象となったAUTS2遺伝子は、ヒト第7染色体上の120万塩基にもおよぶ広い領域に存在する遺伝子で、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、ADHD、薬物依存などのさまざまな精神疾患に広く関連することがわかっていた。これまでこの遺伝子がコードするAUTS2蛋白質は神経細胞の細胞核に存在し、何らかの作用をしているのではないかと考えられていた。しかし、その働きについてはほとんど分かっておらず、この遺伝子の異常がどのように各種の精神疾患を引き起こすのかは不明だった。
さまざまな精神疾患において広く共通の病理が存在することを示唆
今回の研究では、これまでの報告に基づく「この分子は神経細胞の核内で働くであろう」という先入観を排除し、厳密な細胞分画実験と免疫染色実験を実施。AUTS2蛋白質が神経細胞の核だけでなく、細胞質領域、特に神経突起部分にも多く存在することを見いだしたという。
また、この神経細胞の細胞質において、Rac1やCdc42という分子の活性を調節し、神経細胞内のアクチン構造を変化させていることを明らかにした。さらに、その働きによって、AUTS2が神経細胞内のアクチン構造を自在に操り、神経細胞の動きや形態変化を制御することによって、脳神経系の発達に関与していることが示されたとしている。
これまで、精神疾患に関連する遺伝子は多数発見されてきたが、それぞれ個別の疾患に関わるものだった。幅広い精神疾患に関与するAUTS2遺伝子の働きが明らかになったのは世界で初めてであり、今後、さまざまな精神疾患に共通する根本的な病理の解明や、新たな治療法の開発につながることが期待できると研究グループは述べている。(横山香織)
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース