人工細胞の設計など新たな治療戦略への応用にも
京都大学は12月12日、同大薬学研究科の掛谷秀昭教授、西村慎一助教、徳倉将人同学部生らの研究グループと、理化学研究所の吉田稔主任研究員ら研究グループが、細胞膜ステロールを標的にする抗真菌薬の作用に、細胞膜を構成する成分の膜輸送のバランスが重要であることを明らかにしたと発表した。この研究内容は、米科学誌「Chemistry & Biology」に12月11日付けでオンライン掲載されている。
画像はリリースより
細胞膜は、細胞の内外を仕切るバリアとしてだけでなく、細胞を形づくり、細胞外からの刺激を細胞内に伝えるなどの大切な機能を担っている。また、多くの抗生物質や細菌毒素が結合し薬理活性を発揮する場でもあり、治療薬や治療法の開発のためにも詳細な理解が求められている対象だ。
しかし、脂質やタンパク質、糖鎖などの複雑な相互作用の上に成り立つ細胞膜は、細胞生物学において最も解析が困難な研究対象の一つとされている。実際、50年以上使われている抗真菌薬の作用メカニズムでさえも、正確に理解できていないのが現状である。
ケミカルゲノミクス的解析と生化学的実験などにより明らかに
抗真菌薬には、細胞膜に存在するステロールに結合して効果を示すものがあるが、今回の研究では、その作用をマニュマイシンAという微生物由来の化合物が阻害することを見出した。そしてそれをきっかけに、この化合物が細胞膜や細胞外にタンパク質などの物質を運ぶ輸送(エキソサイトーシス)を低濃度で抑え、一方、細胞膜や細胞外の物質を取りこむ輸送(エンドサイトーシス)には高濃度でも穏やかな阻害しか示さないことが明らかになったという。
さらに詳細に検討した結果、抗生物質の標的となる細胞膜ステロールは、エキソサイトーシスによって細胞膜へ運ばれ、エンドサイトーシスによって細胞膜から取り込まれるというモデルの提案に至ったとしている。
今後、エキソサイトーシスにより運ばれる膜小胞を構成する脂質やタンパク質の種類と量が分かれば、ステロール分子の役割が明らかになり、ステロールを標的にする抗生物質の作用機序がより包括的に理解できるとしている。また、膜輸送のバランスを調節することで抗真菌薬の作用を制御する、新しい治療法の開発も期待できると研究グループは報告している。(横山香織)
▼外部リンク
・京都大学 研究成果