東京大学、名古屋大学、金沢大学、福井大学による医師主導臨床試験
東京大学は10月30日、自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)における対人コミュニケーション障害に対するオキシトシン経鼻スプレーの有効性と安全性を検証することを開始すると発表した。
画像はwikiメディアより引用
この研究は、同大、金沢大学、名古屋大学、福井大学からなる共同研究チームによる医師主導臨床試験。これまでの少人数での検討で有効性があると見込まれているオキシトシンの効果について、多施設連携の大規模臨床試験を行って、開発を推進していくことを目的とする。なおこの研究は、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」の「精神・神経疾患の克服を目指す脳科学研究(課題F):発達障害研究チーム」の一環として実施されるという。
代表的な発達障害、自閉スペクトラム症に対する有効性に期待
自閉スペクトラム症は、一般人口の100人に1人程度でみられる代表的な発達障害であるが、その治療法は依然確立されていない。主に対人コミュニケーション障害を発現するが、従来の薬物療法では、不安や抑うつ、強迫症などの併発症状へ対処するにとどまっており、社会生活の破綻をきたす患者が多い現状にある。
オキシトシンは、脳から分泌されるホルモンであり、女性における乳汁分泌促進や子宮平滑筋収縮作用があることが分かっている。日本国内では注射剤のみ認可され、陣痛誘発・分泌促進などで保険適応が認められている状態だ。一方、ヨーロッパでは、経鼻スプレー製剤が認可され、授乳促進の目的でも使用されている。
オキシトシンはこうした作用だけでなく、動物で親子間の絆を形成する重要な役割を果たしているほか、健常な成人男性への投与で、他者と有益な信頼関係を形成し、協力関係を築きやすくなること、表情から感情を読み取りやすくなることなどが報告されている。これをもとに、少人数を対象とした自閉スペクトラム症を対象とした研究が進んでいる。
今回の大規模臨床試験では、120名程度の18歳以上55歳未満の自閉スペクトラム症診断を受けた人を対象に、オキシトシンまたはプラセボを6週間投与することで、有効性と安全性を確認する。医師による診察に加え、視線計測、表情や音声の定量解析、遺伝子解析などを実施し、治療効果予測マーカーの確立や、治療効果の分子メカニズムの検討なども行う予定という。
この臨床試験により、オキシトシンを医療に用いることを可能とする開発計画が推進されるものと期待される。試験は平成26年11月に開始し、平成27年度中に完了する予定となっている。
▼外部リンク
・東京大学 プレスリリース