多能性獲得のリプログラミングメカニズム解明に一歩
九州大学は6月6日、同大大学院医学研究院 応用幹細胞医科学部門 ヒトゲノム幹細胞医学分野の永松剛助教らの研究グループが、iPS細胞誘導時におけるテロメアテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)の重要性を解明したと発表した。
画像はプレスリリースより
この成果は、慶應義塾大学医学部発生・分化生物学の須田年生教授らとの共同研究によるもので、米専門誌「The Journal of Biological Chemistry」のオンライン速報版に掲載された。
リプログラミングに必須でないが、TERT欠損株で増殖・染色体異常発生
まず研究グループは、iPS細胞誘導時のリプログラミング過程で発現が誘導されるTERTに着目。その機能を解明すべく、TERT遺伝子欠損マウスの生体尾部から線維芽細胞を調整し、Klf4、Sox2、Oct3/4、c-Mycの4因子を作用させてiPS細胞を誘導した。すると著しく効率が減少したものの、iPS細胞は誘導され、三胚葉への分化能も持っていたため、TERTの働きはリプログラミングに寄与するが、必須ではないと判明したという。
一方、樹立されたiPS細胞を継代し維持すると、TERT欠損株では、野生型に比べ増殖異常や染色体異常が発生。これは増殖に伴う染色体末端修飾や保護といった、周知のTERTの機能と一致する。
さらにこうしたTERTの機能が、その酵素活性に依存するものか検証を行った。TERTの702番目アスパラギン酸をアラニンに置換すると、酵素活性が欠損する(TERT D702A)。こうして作り出した酵素活性をもたないTERT D702AをTERT欠損線維芽細胞に導入、レスキュー実験を実施した。
すると、リプログラミング効率が改善され、三胚葉への分化能も獲得されていたという。よってリプログラミングにおけるTERTの機能は、その酵素活性によらないものであると示された。
将来の再生医療実現へ、手法確立の基礎となる研究成果
今回見出されたリプログラミングおよびiPS細胞の増殖・維持におけるTERTの働きのあり方は、TERT欠損細胞においても効率よくiPS細胞を樹立する方法や、TERT欠損iPS細胞でも染色体異常を防いで培養する方法を確立することにつながる可能性を持つ。
研究グループでは、今後TERTの酵素活性以外のどのような機能がリプログラミングに関与しているのか検討するほか、樹立されたiPS細胞の維持においても酵素活性の依存性を検討。これらの研究を通じ作用機序を詳細に解明して、将来の再生医療実現に向けた手法確立の基礎を築くことを目指すとしている。(紫音 裕)
▼外部リンク
・九州大学 プレスリリース
・Telomerase Reverse Transcriptase Has an Extratelomeric Function in Somatic Cell Reprogramming